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第99話 サブとあゆむ

 夢のような時間だった。土曜日の朝早くあゆむが来る。新婚のようなおもちゃのような若い二人の暮らし。 「キース、一人増えちゃったけどもう少し、ここで暮らしてもいいかな。勝手なことしてごめん。」 「いいよ、いいよ、こんな所で新婚生活、窮屈じゃないの?」 「いや、仕事もしやすいし。 あゆむもバンドのメンバーと馴染んできたし。」  あゆむはみんなのアイドルみたいになっている。もう一つのあゆむの趣味は、女装。  初めて銀座の家電量販店で出会った時、女装していた。夢子のコスプレっぽい感じ。サブも見事に騙された。 「あゆむ、俺だけのために女装して。」 「サブのエッチ。またスカート触るんでしょ。」 「あゆむは、全部可愛いよ。」  日曜の夕方は帰る時間だ。切ない別れの時間。 また、あのガキっぽいクラスに帰るんだ。  サブが車を買ったので送って行く。 「お帰り、あゆむ。 サブ君も夕飯食べて行って。」  とうとうあの母親がサブを受け入れた。日曜に送って行くと必ず食事を用意してくれる。  子供に様々な期待をして来ただろう。それを踏みにじったようなサブを、認めるのは辛かったはずだ。  あゆむの父親の力が大きい。サブは懐の深い、あゆむの父を尊敬している。  母親は、夫に愛されている自信に支えられて、なんとか乗り越えたのだろう。  両親二人の愛の形にサブはいつも感動する。 「サブ、また土曜日に、ね。」 熱烈なキス。  こんなに誰かを愛するなんて、サブは感慨深い。もう、この頃書く歌詞は暗くない。  ボカロの夢子はまた、明るいチャーミングな表情になりつつある。  毎週末、この手に抱くあゆむは、いつも新鮮な感動を与えてくれる。  もちろん、二人はまだ、本当の意味では結ばれていない。それでも一緒に風呂に入るし、お互いの身体の隅々まで知っている気がする。  毎日、指折り数えて、早く大人になれ、と祈るようだ。 「ボクが大人になったらサブはどうするの?」 「うん、あゆむと結婚するよ。 ドレスを着せて。きっと似合うだろうな。」

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