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第100話 スタジオ

 あゆむはスタジオでミクオに会った。 「ねぇ、ミクオってパパと同じ年くらいかな。」 頭を撫でられて 「可愛いなぁ、まだ中学生だって? 親御さんは認めてるのかい?」  大人の中の大人、ミクオはあゆむを可愛がってくれる。  普段、凍夜はミコトをディアボラに送ってからスタジオに来る。新曲の打ち合わせとか、ボイストレーニングとか、やることはたくさんある。  下の階に住み着いたテツも早い時間にはベースを触りに来る。ホストの合間に、毎日音を出さないと気が済まない。ベースが恋人だった。  松ちゃんはたまにサキソフォンを持って現れる。音楽配信が、再生回数も伸びて忙しそうだ。  タカヨシも仕事が終わると、キースとミクオと一緒に来る。三人、職場がほぼ同じだから。  夜になるとセッションが始まる。テツがいないのが物足りないが、みんなノリノリで盛り上がる。 「ミクオさん、この頃キーボードばかりで、 ギター弾いてくださいよ。」  タカヨシのリクエストでベースを披露した。 「凄い!ミクオさん、 ジャコ・パストリアスを思わせるベースだ。 テツとはまた違うタイプ。」 「ミクオは何でも出来るんだ。」  キースが自分の事のように目を輝かせて話す。 「ジャズ・フュージョンもありだね。」 「4フレット4フィンガー。 3フィンガーじゃなくて。」  みんな音楽を愛している。世代は違っても興味深い音楽の話。  ホストクラブ『ディアボラ』も華やかに夜は更ける。テツも中々ホストがサマになっている。  ミコトは凍夜の客を受け継いでベテランの域だ。店は平日は落ち着いた雰囲気だ。  常連の太客が来てくれる。 「ミコト、おいで。」 レオンに呼ばれて席に行くと珍しい客がいた。 傑が外国人と同席している。 「ミコト、グレースだよ。彫師だ。 レオンの腕を見た事があるだろ。」  レオンの右手にはタトゥーが入っていた。 そんなに隠してはいないが、わざわざ見せることもない。色々な言葉のような外国語の中に、小さな龍と傑の眼が彫られていた。 「あ、タトゥー、オレも入れたい。」 ミコトは、思わず声が出た。

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