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第103話 油断

 凍夜はこの所、自分でも抑えきれない苛立ち(いらだち)がある。  いつでもヒーローだった。手に入らないものはない。物も人も。  誰もが凍夜の才能に魅了される。 凍夜の性格の悪さにめげない、ミコトの強さが凍夜を救っていた。  誰もが魅了される凍夜の魅力の裏で、自分勝手な、人間的な暖かさに欠ける凍夜を、まともな世界に繋ぎ止めておいてくれる存在。 「俺は心が凍てついてんだよ。 カッコつけて凍りついてんの。」 「私に温めさせて。」  手を握って離さないナザレに、心の中で警鐘が鳴り響く。 「タクシー呼ぶから『バー高任』に行きなよ。」 タケルさんがタイミングよく言った。 「あ、『高任』にミコトがいるんだ。 ナザレも一緒に行くかい?」 (連れて行くのは可哀想だろ。) そう思いながら、タクシーを呼んだ。 『バー高任』にはミコトの他にテツもいた。そしてレオンとあのグレースがいた。  テツの胸に一瞬緊張が走る。 「ナザレも一緒だったんだ。」 「どうも。あら、ナンバーワンのレオンもいる。 ああ、ここはレオンのダーリンのお店ね。 初めまして、ナザレです。」  グレースが 「ナザレ?ナザレのイエス?」  と言って驚いている。 「彫り師のグレースだよ。 レオンのタトゥーを彫った人。  占い師でもあるんだ。誰か占ってもらったら。」  傑が声をかける。ナザレが 「うちの店はみんな聖書から取った源氏名を使うのよ。ナンバーワンは当然マリア。  あと、ヨハネとか、パウロとか、ノアとかルカとか、色々いるわよ。店の名前がアンジー、天使だから。」 「そして姉妹店のディアボラは悪魔だ。」 凍夜が付け足す。グレースが納得した。 「所でテツくん、さっきの話は大体わかったよ。 あなたはあまり幸せな恋は無いわね。  運命は自分で引き寄せるもの。」 「えっ?なになに?気になるなぁ。」  ナザレがテツに聞く。テツは苦笑い。  凍夜はミコトの肩を抱いて 「そろそろ帰ろう。もうずいぶん遅いよ。」 グレースも帰るという。広尾だったら同じだから 凍夜とミコトが送って行くことになった。 「テツはナザレを送っていきなさい。」 と、グレースが言葉を残して行った。 「!」 テツは焦った。

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