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第108話 また一人
『バー高任』に来ている。今日はレオンはディアボラが休みの日だ。週に三日しか出勤しない。
それでナンバーワンを維持しているのは驚愕に値する。
「グレースは来ますか?」
レオンが
「あの、おまじない、どうだった?」
「何を使って書いたのか、中々消えなかったけど
この頃やっと薄くなって来たよ。」
「効果はあった?」
「ああ、ダメみたいだ。別れちゃったよ。
彼女とは、価値観の違いだな。」
マスターの傑がグレースを呼んでくれた。
「はい、テツ、恋のおまじないは、どうだった?」
「ええ、恋は終わった、と思う。」
「やっぱ、タトゥーで入れないと効き目がないねぇ。」
「いや、タトゥー入れなくて良かった。
もう消せないとか困る。」
グレースが手を握ってきた。
「ふんふん、また、新しい恋に巡り会えるよ。
今度はいい男に巡り会える。」
テツはとっさにミコトを思った。心の中でブンブン頭を振った。
(ダメだ、凍夜に殺される。)
また、寂しい日々が始まる。
「トーストにバターを塗るたびに思い出すなあ。」
ナザレはいい女だった。忘れられないだろう。
今夜もディアボラの夜が始まる。賑やかで、華やかで、ちょっとうるさい。
もうすっかりイケメンホストのテツだった。
社長の円城寺が見かけない男を連れて来た。
「今日から働くパクだ。韓国人。
日本語も大丈夫そうだからよろしくな。」
運命の神様がウィンクしている。
「ボク、音楽が好きです。Kポップ、好きですか?
『凍てついた夜』の人がいるって、聞いて楽しみです。」
テツとパクは一瞬、見つめあってしまった。
永遠に感じられる一瞬だった。
いつも淳と零士が教育係だが、パクは
「ボク、テツさんに付きたい。」
と言い出した。
「テツさんのエレキベースのファンなんです。
チョッパーベースカッコいいです。」
「別にチョッパーべースのつもりないけど。」
テツは迷惑だと思った。
「新人に指導出来るようなベテランじゃないよ、俺。」
「いいから、いいから、気が合うのが一番だ。
じゃ、テツよろしくな。」
と円城寺に押し付けられた。
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