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第109話 新人

「パクって名前?名字?」 テツは新人に話しかけた。 「ボクはパク・ジヌといいます。 日本の人ならジヌって呼んでください。」 「ジヌはいくつだ?」 「はい、20才です。 日本には一応語学留学で来ました。 でも、本当は歌やダンスがやりたい。 BTS、知ってますか?」 「ああ、少しなら知ってるよ。 カルバン・クラインのモデルやってたカッコいい人がいたな。」 「そうそう、ジョングク。素敵です。」  ジヌの夢見るような瞳が綺麗だった。 さすが円城寺社長がどこかから引き抜いて来ただけの事はある。彼はイケメン好きだ。 「今日は俺のヘルプについて。」 (ヤバいな。指名が入らないとカッコ悪い。) 黒服を兼ねたホストが耳打ちした。 「良かった。指名が入った。」    マダムヒロコが来てくれた。凍夜の太客だったが、ミコトと一緒に指名してくれる。  70年代のロックの話で盛り上がってからだ。 「いらっしゃい。 今日は新人がヘルプにつきます。」 「パク・ジヌです。よろしくお願いします。」 「二十歳だって。」 「じゃあ、新人さんに何かシャンパーニュを卸しましょう。」  いつも高いお酒を入れてくれる。今日はいつものソウメイに加えてアルマンドを卸してくれた。 「あの、この店ではシャンパンコールとかないんですか?」 「ウチは、そういうのやらないよ。 うるさいのを嫌うお客さんが多いんだ。 騒ぐのは下品だろ。」  ジヌは水商売は初めてだ、と言っていた。ホストクラブに変なイメージを持っているようだ。  オーナーの菫ちゃんがとにかく品のない接客を嫌う。 「ほほほ、ジヌくんは歌舞伎町辺りの賑やかなのがホストクラブだと思った?」 マダムヒロコが優しく聞いた。 「はい、ボク、無理矢理お酒飲まされるのか、と心配してました。」 「可愛いわね。ここはサロンなの。 ゆっくりお話しする所。  ジヌは何か特技はあるの?」 「歌を歌います。ダンスも。」  凍夜が辞めてしまって歌えるホストがいなかった。歌と言ってもプロの歌だ。その辺のカラオケスナックではない。 「今度、凍夜が来たら歌ってもらおう。」 「あ、ボク知ってます。 『凍てついた夜』のボーカルの人。 会いたいなぁ。」  ミコトが嬉しそうだ。マダムヒロコが 「ここにいるミコトの彼だよ。」 「え?男の人が好きなの?」

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