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第111話 パク・ジヌ 2

 ジヌは自分の性的指向はゲイかな、と思う。 今まで好きになるのは男ばかりだった。高校生の頃から男にしか心を惹かれない。  学歴重視の韓国で、高校を卒業したら、日本の大学に入ろうと思っていた。親の反対で韓国の大学に2年通ったが、3年目に日本の大学に編入した。真面目に勉強してきた。  音楽の道に進みたかったが、親に反対され諦めた。子供の頃からピアノをやっていた。  親は、現実的ではない、と認めてくれなかった。  日本に来たら自由だ。 親が、ホストになった事を知ったらどうなるだろう。仕送りを止められるかもしれない。 「でも、自由だ!」  韓国では、留学と言えば専らヨーロッパか、アメリカだった。日本をライバル視している。日本なんかに学ぶ事はない、という年寄りが多い。  ジヌは敢えて日本に来た。Kポップでは、日本は稼げる市場だ。みんなが日本デビューを目指す。韓国の二倍以上の人口がいる日本。  ジヌもずっとKポップ歌手を追いかけていた。みんなセクシーだ。憧れの歌手はたくさんいる。  日本にも、カッコいいバンドがたくさんいるが ジヌは『凍てついた夜』が気になっていた。ネットで見てファンになった。  そんな『凍てついた夜』のメンバーとセッションが出来るなんて。 「凄い。この状況が信じられない。」 「キース、俺の隣の部屋、空いてるよね。 ジヌが住むわけにいかないかな?」 「そうだね、ゲオルグに聞いてみよう。」 ミクオが交渉してくれた。 「もう、円城寺の所に帰るなよ。 イマイチ、信用出来ないんだ。男に手が早いんだ。」  凍夜もミコトもその事はよく知っている。 「明日一緒に行って荷物とか取ってこよう。 社長になってからは店のホストに手は付けてないと思うけどな。」  円城寺は社長になる前は、ディアボラのオーナーだった。酷い経営で反社の人間が店に我が物顔で出入りしていた。オーナーから雇われ社長に、いわゆる格下げなのだった。  借金を背負って破産する寸前で、菫ちゃんに拾って貰った。手離さざるを得ないディアボラを、ビルごと買い取って、雇われとは言え社長に据えてもらえた。恩を感じているはずだ。  円城寺もゲイなのだった。いや彼はバイかもしれない。見境の無い男だ。  深夜だったが2階に住んでいるキースの父、ゲオルグが鍵をくれた。 「ジヌ、部屋を案内するよ。」 キースが言った。 「テツの隣だ。一階の102号室。 10畳ほどのワンルームだけど、お風呂もベッドもあるし、すぐに暮らせるよ。」  ホテルライクなマンションで、ショールームの若い社員も何人か住んでいる。  8室ほどの独身者用ワンルームが並んでいる。 「居心地はいいよ。洗濯もしてくれる。」

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