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第114話 誰にも言わない

 まだまだ大人は保守的だ。ジヌの国は特にそうかもしれない。  ピアノの先生は一方的に責められた。家の恥だと親戚中に責められたらしい。  音大を出て、念願のピアノ教師になれたのに。それまでずっとジヌを大切にしてくれた。 「責められるような事は何も無かったんだ。 手も握っていない。ただ想いだけが溢れていた。」  ジヌは綺麗な涙を流した。 「この国にも偏見を持っている人は多いよ。  でも、愛する人に出会ってしまったら、他者がどうにかする事は出来ない。 そんな権利もない。」  テツは自分のそんな考えを話した。 『凍てついた夜』には同性のカップルがいる。 キースとミクオはカムアウトしている。凍夜とミコトも可愛いカップルだ。可愛いなんて言ったら、凍夜に殴られるかな。  それ以来、ジヌの顔を見るのがつらい。いつも一緒にいる時間が多すぎる。意識しないで暮らせない。 (でも、いつかジヌは国に帰るのだろう。 また、ピアノの先生の元にいくのだ。 心に彼を抱いている。 いつでも愛し合うことの出来る距離。 待っていてくれるのだろう。) 「おはよう、テツ、朝ご飯作ったよ。 ボクの部屋に食べにおいで。」  屈託の無い笑顔で誘う。 「チヂミ、焼いたんだ。 暖かい内にどうぞ。」 「うん、美味い。このタレが絶品だ。」 食べるテツをニコニコして見ている。  仕事で酒を飲んだ夜は、欲望に負けそうになる。バンドのメンバーは気付いているようだ。 切ないテツの気持ちに。 (いつも近過ぎるんだ。一緒にいる時間が長いからお互いしか見えなくなってる。  少し距離を置きたい。) 「ハイ、ジヌは元気ないねぇ。どうした?」 マダムヒロコが心配してくれる。  あれ以来、ジヌの太客だ。義理堅くミコトとテツも指名してくれるが、ジヌに会いに通ってくる頻度が増えた。 「若い子を育てるのも年寄りの務めでしょ。」 「ありがとうございます。 ボク歌を歌います。」  ディアボラは週末にはビッグバンドが入る。ベテランのバンドメンバーは、昔ながらのラテンミュージックが得意だ。この頃、ジヌも歌わせてもらえるようになった。

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