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第115話 無力

 『凍てついた夜』も地味に活動している。テツがいくつか作曲して、新曲も準備している。  土曜日には、サブの所にあゆむがくる。ジヌも可愛いカップルを時々見かけている。 「可愛い子がいますね。 まだ、若そうなのにお泊まりするなんて 親御さんは大丈夫なんですか?」  サブがあゆむの頬にチュッとしているのを見かけて羨ましそうに聞く。 「あゆむは両親公認だよ。」 可愛いあゆむが女の子だと思い込んでいるジヌに 「あゆむは男だよ。」 「えっ?それでも親は許すんですか?」 ジヌは、日本はずいぶん進んだ国だ、と感心した。 「彼らは特別だよ。 認めてもらうまで色々大変だったんだ。」 ジヌはそれを聞いて、自分ももっと努力するべきだった、と後悔した。 「同性でも幸せなカップルは、いる。 ボクは先生を守れなかった。 ボクの親が先生に酷い事をしたのに ボクは何も出来なかった。  サブは凄いな。」 (先生、逢いたい。)  ディアボラではジヌの歌う「イムジン河」が評判になっている。透き通ったジヌの声で歌うそれは、お姉さまたちの涙を誘う。  人気者になっている。  バンドでも本気でジヌに歌わせようとみんなが言い出した。凍夜が曲を考えている。 「ストレートな恋の歌、がいいな。」  ミコトの詩を待っている。 「疲れたぁ。テツもお疲れ!」 仕事が終わって珍しく一緒に帰ってきたジヌとテツ。  テツはこの所、毎晩のようにアフターを入れてジヌとは別行動をしていた。  久しぶりに一緒のジヌは、テツの部屋のソファに倒れ込んだ。 「自分の部屋に行けよ。キスしちゃうぞ。」 笑いながら言うテツに、思わず真面目な顔をした。 「いいよ、キスして。」 「やだよ。早く帰れ。」  ジヌは部屋に帰って少し泣いた。 逃げるように日本に来た。いつか国に帰れば先生に逢える、と自分に言い聞かせて。  先生は自殺してしまった。 本当はもうどこにもいない。  幸せそうなカップルを見ると、自分もああいう風になれたのに、といつも思う。  今は遠く離れているだけだ。帰れば逢える、と 自分にそう思い込ませて来た。 帰る場所。あなたに逢える所。 帰ったらきっと・・。  もうどこにもいないのに。 この世界のどこにも、いない。

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