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第116話 思い出はSLOW
子供の頃から憧れの人だった。ジヌの一方的な片思いだった。先生の横顔をいつも見ていた。
高校生の頃は先生に抱かれる事を夢見るようになっていた。
先生は何も言わない。ただじっと見つめるだけだった。思い切って胸の内を告白した事もあった。
「先生が好き。ボクおかしいですか?」
先生はただ笑うだけ。抱きしめて欲しかった。
ピアノの前だけが二人の時間。だから一生懸命に練習した。
先生の大学に進むつもりだった。いつも親が
反対する。この国では親の意見が絶対だ。
「もう、ピアノは辞めさせるよ。
大学受験があるのでね。」
父に言われた。先生にはどうにも出来ない。諦めるようにジヌに言った。
何を諦めるのか。先生の事か、ピアノの事か。思い詰めたジヌを思って、先生は姿を消した。
「まだ愛を確かめ合ってもいないのに。」
ジヌは大学生になった。思いは募る。
先生に会いに行った。
「先生、ボクの事、どう思ってるの?
ボクがずっと好きだった事、知ってたよね。
お願い、教えて。」
先生は距離を置いて静かに話した。
「ずっと、ジヌを愛してきたよ。
他の誰も目に入らなかった。
それがジヌを縛ってたのか。
この手で抱きしめたい、といつも思っていた。」
渾身の自制心で踏みとどまった、と言った。
「私は男だ。
ジヌはそれがどういう事かわかっているのか?」
先生はジヌに指一本触れなかった。
家に帰って親に懇願した。先生と一緒になりたい、と。今までの自分の気持ちを全て話した。
既成事実は何もないのに、親は先生を責めた。
「大人のあなたが、息子をたぶらかしてどうするのです。まだ、子供なんです。
判断力のない子供の心を弄んで。
二度と息子の前に現れないで。」
ボクは慌てて先生に会いに行った。
「先生、ごめんなさい。
親が悪くとらえて酷いことを言ってる。」
先生はボクの頭を撫でて
「ジヌに謝るのは私の方だ。
本当にジヌを愛していた。宝物だった。
手を触れてはいけないと大切に思っていた。
ジヌも私を好きだ、と言ってくれたから、もういいんだよ。違う世界で会えたなら、愛し合う事が出来ただろう。
私に勇気がないばかりに、泣かせてしまったね。可愛いジヌ、ジヌシ。」
泣きじゃくるボクにキスもしてくれなかった。
でも、心が繋がってる、と言った。
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