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第119話 新曲は神曲?

 ミコトが恋の歌を考えていた。サブと相談して出来上がった。サブはあゆむと話し合って書いたと言う。  切ない別れの歌のようで、でもそれが希望に変わる。救いのある歌詞が今までとちょっと違う。  久しぶりの『凍てついた夜』の新曲。 配信と同時に再生回数が物凄い数字になった。  新メンバーのジヌを紹介したユーチューブが話題だ。 ーまたイケメンが増えた。 ーKポップ歌手みたい。 ーボーカルとピアノがカッコいい。 ー作詞にあのサブが絡んでるらしい。 話題に事欠かない。  テツは相変わらずストイックにベースを弾いている。もう前みたいに恋人が欲しいなどと焦らなくなった。心にいつもジヌがいる。  二人の距離は縮まらない。 「いいんだ、俺は急がない。」  土曜の朝、あゆむがサブの所に来ている。朝イチで飛んでくる。サブにまとわりついて可愛らしい。 「サブ、サブ、寂しかったよ。キスして。」  頬にくちづけをもらって嬉しそうなあゆむ。 スタジオから二人の様子が丸見えだ。  隣のサブの部屋は、いつもドアが開けっぱなしなのだ。  ピアノを弾きに来たジヌは、そんなオープンな二人が羨ましい。屈託の無い笑顔のあゆむが眩しい。優しく包み込むサブの男っぽさが素敵だ。指を絡めて甘えるあゆむの愛しさが伝わってくる。  あゆむは人懐っこくて、スタジオに誰かいるとすぐに話しかけてくる。 「ジヌは、ピアノ上手だね。」 好奇心の塊のようなあゆむ。 (ボクもあゆむみたいに甘えるのが上手だったらなぁ。)  こんな時、甘えたいのはテツ、だった。 いつもベースを離さない。ストイックに練習しているテツ。  ホストの仕事中はガラッとイメージは変わる。 スマートな接客。たくさんの太客を持っている。もうすぐナンバーに入りそうだ。  スーツ姿のテツも好きだ、とジヌは思う。 シャンパンを注ぐその手がカッコいい。  『誰かを想いながら歌う恋の歌』はヒットしている。ネットでいつも聞こえてくる。  ショッピングモールでも聞こえてくる。 自分の声を聞くのは、くすぐったい。 「今日はジヌのスーツを買おう。」 テツの運転で二人でやってきた。 「ジヌのカッコいいスーツを買おう。」 ジヌの歌が流れてきて顔を見合わせる。 「ファンに見つからないといいけど。」

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