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第121話 告白
買い物に行って女子高生に見つかって以来、テツはジヌを好きだと言ってはばからない。
ジヌは周りの意外な無関心に驚いている。誰も表立って非難して来ない。
「日本はおおらかな国だなぁ。」
そんな事はない。差別と偏見は根強い。
ただ、ここは都会の真ん中だから、というのと
バンドなんかやってる者はそんな事、珍しくない、特殊な人種だと思われている。
それこそが偏見なのだが。
テツとジヌは手を繋ぐのが精一杯だ。それ以上に進めない。カミングアウトした事になっているが、まだ一線を越えられない。
バンドのメンバーはみんな節度あるカップルだから、そばにいても不快にならない。
キースとミクオがスタジオに入ってきた。大人の中の大人、ミクオがキースとお揃いの指輪をしているのに気付いた。
気を付けて見ていると凍夜とミコトも指輪をしている。凍夜は人差し指にしているのがカッコいい。
「サブとあゆむは、何か指輪とかしないの?」
「ああ、俺たちまだ結ばれていないからなぁ。
中学生だし。
あゆむが18才になったら、と思ってる。」
「なるほど。」
タカヨシと春乃さんのノーマルカップルは、来春結婚式を挙げるそうで、今は春乃さんが可愛いダイヤをアレンジした婚約指輪をしている。
唯一の既婚者、松ちゃんは普通に結婚指輪をしている。
ファンはめざとくそんなものを見つけて騒ぐが、『凍てついた夜』はいつもオープンだ。
隠さないので騒ぎはすぐに消える。
サブのボカロ、夢子のほうがよほどスキャンダラスにつつかれる。
スカートが短いとかでファンにお叱りを受ける。
以前、コスチュームで、ミニスカートの中にきわどい紐パンを穿かせたら大炎上だった。
「そんな娘に育てた覚えはありません!」
だと?
「俺も覚え、ないわ。」
と、サブが困惑していた。もう今はみんなの夢子だ。ファンはみんなで成長(?)を見守っている。ネットの世界の住人は面白い。
テツはジヌを大切に思っている。いまだにキスも出来ない。初心なガキの恋愛ごっこみたいだ。
ジヌは期待して待っている。
いつも一緒に食事するのも当たり前になって来た。
「テツ、ジヌ、朝ごはん食べた?
ママが朝早くパンを焼いたの。食べてぇ。」
あゆむが土曜日の朝、大声で起こしに来た。
サブが嬉しそうに見守っている。
テツは小さい声でサブに聞いた。
「おまえたち、ベッドインはまだなんだろう?」
あゆむが真っ赤になった。
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