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第127話 浮気?

 テツは、朝方まで帰ってこなかった。 ドアの開く音で目が覚めたジヌは、浅い眠りに飛び起きた。  自分の部屋で一人で眠るのが、久しぶりの感じだった。  手を伸ばしても誰もいない。うつらうつらしていた。  ドアの向こうにテツの気配がする。部屋に行くのをためらう。  テツは、疲れていた。朱莉さんが寂しそうで置いて帰って来れなかった。 酔っぱらってベッドに倒れこんで眠る朱莉さんの上着を脱がせて、楽にしてやろうとしたら、目を開けてじっと見つめられた。 「あ、眠ってるのかと思った。 鍵、開けて勝手に入ったよ。」 「フフフ、このまま抱いて欲しい。」 「ごめんよ、俺、嫁がいるんだよ。」 「いいよ、私は嫁の座を狙ってないから。」 首に腕を絡めて囁く朱莉さんは、凄く魅力的だ。思わず襲ってしまいそうになる。 「ダメだよ。俺の忍耐力を試さないで。」 くちづけをされた。甘いくちづけ。舌を入れてくる。絡めて本気になりそうだ。 「あ、ああ、テツ、好きよ。」 (なんだ、この人は。酔っ払いなのに可愛い。 いい女だな。)  しどけなくセクシーだ。我を忘れそうになる。 すんでのところで自制心が勝った。髪を撫でて頬にキスを残し、帰る。 「テツ、いい男。バイバイ。」  部屋に朱莉さんを残して、鍵をかけてドアポストに放り込む。 「ふう、姫を送ってくると、いつもこういう危機があるなぁ。」  横浜は眠らない町か。伊勢崎町辺りの明かりを後ろにタクシーに乗る。  ジヌは、一人で眠っているのか。 早く抱きたい。抱きしめてジヌの匂いに包まれたい。  テツの部屋にはいなかった。鍵を渡してあるのに。 「俺のベッドで眠るんじゃなかったのか。 一人にはしないって約束したのに。」 ドアを開けて眠そうなジヌが入ってきた。抱きついてキス。押しのけられた。 「テツ、口紅が付いてるよ。口紅の甘い匂い。」 (ああ、そうか。しまった。 何もしていないって言っても、 信じてもらえないかな。) 「僕、部屋に戻る。」 「待てよ。 俺がどんなに我慢して帰って来たと思ってるんだよ。 勝手に想像してヤキモチか。」 背中を向けた肩を掴んで顔を見る。可愛い瞳に涙を溜めて見つめてくる。胸に抱きとって離したくない。 「ごめんよ。彼女が寂しそうだったから。 くちづけだけ、したんだ。」

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