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第131話 素晴らしい犬、ゲスな人間

「スイスにいる妹のニーナに聞いてみた。 ワイマラナーは犬の貴族だ。ドイツ・ワイマラナー・クラブに登録されて厳しい犬種管理をされているんだって。高価な犬だよ。  大きくて運動量も多い。マンションのワンルームで飼えるような犬じゃないって。」  ジヌはガッカリした。 「なんでワイマラナーなんだ。 ポメラニアンとかじゃダメなのか?」 「うん、そうだね。狩猟犬だから狭い所で飼われたら犬も可哀想だ。」  先生が大切にしていた犬だった事をテツに話した。テツが頭を撫でてくれた。 「きっと、その子は愛されてたんだな。 いつか、俺が郊外に広い庭のある家を買ったら、きっと、ワイマラナーを迎えよう。  そしてジヌと一緒に愛し合って暮らそう。」  テツは一つ、人生に目標が出来た。 (俺がジヌを幸せにする。)  今夜も『ディアボラ』に出勤だ。ジヌと話し合って、まだ、ホストを続ける事にした。  早速、ジヌに指名が入った。 あのアミさんがイ・ソジュンを連れて、来た。 ソジュンはかなりのイケメンだ。胸板が厚い。 「いらっしゃいませ。 ご指名ありがとうございます。」 「カタイ、カタイなぁ。ジヌシ、カタイよ。 俺の前でそんな他人行儀な態度はやめて。」 (だって他人じゃん。 馴れ馴れしくてなんか嫌だ。)  派手に高いお酒を注文している。 「あのぅ、ソジュンは何をしている人? お仕事。」 「ああ、デイトレーダー。株屋だよ。 主に外国為替証拠金取引、FXだよ。」 「へぇ、難しそう。」 「今は円安だから、刻々とレートが変わるんで目が離せない。忙しいよ。」 「儲かるの?」 「結構手数料がかかって儲からない時もあるよ。 元本割れもあるし。」 「難しくてあんまり儲からなさそう。」 「素人にはお勧め出来ないなぁ。」 (忙しいなら、ホストクラブなんか、来なくていいよ。)  アミさんはお気に入りのジンとおしゃべりに夢中だ。ジヌはソジュンに、肩に手を回されて嫌な感じだ。耳に息を吹きかけてくる。 「近いですよ、やめてください。」 「俺、ジヌが好きになったんだよ。 一回ぐらい付き合えよ。」 「付き合うってなんですか?」 「わかってんだろ。こんな仕事してるんだから。」

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