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第132話 クレーマー
「わかりませんよ。
ちょっと離れて。近いよ。」
抱き寄せられて動けなくなる。手を取って胸の筋肉を触らせる。確かに凄い大胸筋。
「俺さぁ、女に興味ないんだよ。
ジヌに惚れた。やらせろよ。」
離れた席でテツが立ち上がった。
「パシンッ!」
ソジュンの頬を打ったのはアミさんだった。
「イ・ソジュン、いい加減にしな!
私の顔を潰す気か?」
テツが座り直した。自分のお客さんの接待に戻る。
「ごめんね、ジヌシ。
イ・ソジュンは酒癖が悪いね。
お恥ずかしいね。
お詫びに景気付けに何かシャンパンを入れてちょうだい。」
「なんだよ、こういう所は、気に入ったらお持ち帰りしてもいいんだろ。男芸者なんだから。」
「あんたのよく行く安いキャバクラじゃないんだよ。」
アミさんはさすがだ。こっちが言いたい事を言ってくれた。
「なんだよ、コモ。
イケメンのチョカを自慢したいって言うからついてきてやったのに。」
「おまえは中身がイケて無いんだよ。
ここの払いをして,帰れ。」
ジンがとりなす。
「まあまあ、アミさん、甥御さんも、せっかくの夜を楽しみましょう。」
「ああ、ジヌの指名は取り消しだ。
チェンジ、チェンジ、違う奴呼べよ。」
円城寺がやって来た。
「お客様、ウチはチェンジとかいう安っぽいデリヘルみたいなシステムはございません。
お気に召しませんでしたら、お勘定は頂きませんからお帰りください。
もう二度と六本木で遊ぼうなどとお考えになりませんように。あなたのために申し上げます。」
強面の顔をして啖呵を切った。
いつもは、昔のイケメン、と言われている冴えない社長だが、こういう時は迫力がある。
イ・ソジュンは六本木を歩くな、と言われている事に気付かない。円城寺がここまで言うのは珍しい。
「けっ、覚えてろよ。」
イ・ソジュンは立ち上がって札を投げつけて帰って行った。
札を拾い集めてジンが
「これじゃ足りないよ。」
真っ赤になったアミさんが、バッグからブラックカードを出してジンに渡した。
「ごめんなさい。わがままに育てちゃって。」
「アミさん、また来てくださいね。
お待ちしてます。」
握手して帰って行った。
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