133 / 143

第133話 テツの想い

 帰って来てテツは機嫌が悪い。 「なあ、ジヌ、やっぱり、仕事辞めてくれないか?」 「うん、今日は僕も気持ち悪かった。 普通、あんなに接近してくるお客さんはいないよ。  普段、どんな所で飲んでるんだろう? お触りOKとか、日本の恥だね。」 「俺、ぶん殴りに行こうかと思ったよ。 アミさんが代わりにひっぱたいてくれた。」 「あーあ、違う仕事探すの大変だ。」 「ジヌはなんでディアボラに来たの? 円城寺社長とは知り合いだったの?」 「ううん、カフェでナンパされた。」  ジヌは、日本に来て大学に編入した。住所が必要で、親の決めたアパートに住むことになっていた。仕送りも多くないから、バイト探すのに求人誌、持ってスタバに入ったら、円城寺に声をかけられたらしい。 「仕事、探してるのか? 儲かる仕事、あるよ。」 って誘われた。 「名刺、貰ったら社長って書いてあって、信用した。」 「危ねぇなあ。よく無事だったな。」  男を売る風俗だってある。売り飛ばされなくて良かった。ジヌは可愛いから高い値がつきそうだ。考えただけではらわたが煮えくりかえる。  当分、仕事は続ける事にして、テツは音楽のほうに力を入れたい、と思った。 「ジヌ、ピアノを弾いて。 俺もベースをやる。それから作曲も。 一番好きなことを頑張ろう。」  二人で三階のスタジオへ行った。 「何か歌って。」  ジヌの優しい声が聞きたい。綺麗な曲を歌い出した。韓国には美しい歌がある。  ピアノを弾きながら歌うジヌの声。嫌な思いも流してしまうような。 (ジヌのために綺麗な曲を作ろう。 俺のジヌを汚す奴な許さない。) また、怒りが湧いてきた。  どんな苦しみを耐えてきたのだろう。愛する人を亡くして。  自分だったら耐えられない。愛しさが込み上げてくる。  ジヌと先生のプラトニックな想いは、純粋さが際立つ。 「何だか羨ましいな。先生とジヌは美しい。 俺はジヌを汚してしまったんだろうか。」 「イヤだ。そんな風に思わないで。 僕たちの愛が汚らわしい物みたいだ。」  テツはいつもジヌを抱きたいのだ。 (先生はどうして我慢出来たんだろう、こんなに愛しいのに。)

ともだちにシェアしよう!