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第136話 『凍てついた夜』始動
「本格的にバンドとしてデビューするのか?」
今まで名前だけ所属していた事務所を辞めた。
凍夜たちがやりたい方向と、事務所の考えが違いすぎるのだ。売れないバンドだと舐められていた。売れるということが違った。安売りする気がないバンドだっただけだ。
そんな気持ちをわかろうとしない、ただ、商業ベースに乗せようとする事務所はこちらから切った。生意気だと、業界内で嫌がらせをされても、はなから相手にしなかった。
「俺たちのバンドは特殊なんだよ。
つまんない事、させる所はお断りだ。」
そんな中で、いきなり大きなフェスに参加が決まった。インディーズの下積みもない。
いつも強気の凍夜たちだった。
「俺たち、もう若くないんだよ。時間がないんだ。あれこれ迷ってる暇はない。」
ミクオが、俺の事か?と笑った。
『東京湾メガフェス』はアジア圏最大のフェスと言われている。その収益はライヴ・エイドと同じように全額寄付される。
今回は戦争を終わらせるために、だ。
様々なイデオロギーの違いが思惑となって、中々戦争は終わらない。
それを身を持って知っているミクオが声を上げた。
外交問題が絡む世界情勢で、超越した声を上げられるのは、音楽だけだ。
「こういうの、やりたかったんだよ。」
メンバーは意欲的だ。
サブとテツとミコトは曲作りに没頭した。
ミクオは渉外交渉だ。名都と藤尾さんを仲間に引き入れた。
「大物過ぎないか?本当に動いてくれるのか?」
藤尾さんはお忍びで、裏から動いてくれるそうだ。動かせる人脈がある。
「おもしれぇ。ワクワクするぞ。」
「悟空か?」
「俺、アニメの影響が大きいな。」
「日本のアニメ、好きです。」
ジヌが喜んでいる。
テツがしみじみ言った。
「こういうのがやりたかったんだよな。
音楽で言いたい事を言うのを。」
「俺たちの武器は音楽だから。」
ミクオもギター一本で危険な国を渡り歩いた過去がある。
(名都とゆっくり話がしたい。
今なら、ささやかでも何か出来るかもしれない。この平和ボケした国で。)
サブはずっと考えていた。
(この閉塞感の中で足掻いてる奴がきっとたくさんいるはずだ。そんな孤独な若者と繋がりたい、音楽で。)
ボカロの観音寺夢子を生み出したのは、自身、そんな孤独からだったあの頃。
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