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第137話 メガフェス

 東京湾、羽田寄りの埋立地に大きなスタジアムが建設されている。環七が、大森から海中を掘り下げて作られた道路に囲まれて、広大な埋立地があった。そこにスタジアムができていた。  コロナ禍で、遅れに遅れて今年出来上がった巨大なスタジアム。オリンピックにも間に合わなかった。人々の不満の十字架を背負った建造物。 ー税金の無駄遣い! ー世界に日本の力を示せなかった。 ー負の遺産。 ー全く無駄なもの。 ー呪われている。  陰の実力者、藤尾集蔵が、日本のエンターテイメント業界を牛耳る、「ジャポニカ・デリコ」に全面的に協力を求めた。  デリコは元ドラァグ・クイーン。そしてゲイ。 「集蔵の直々の頼みなら仕方ないわねぇ。 メガフェス?もちろん世界一のフェスをやるわよ。世界一のアーティストに全部、オファーして。」  一大プロジェクトが動き出す。 藤尾さんはミクオのバンド『凍てついた夜』も、よく知っている。でも優遇はしなかった。特別扱いは無し。実力で選ぶ。 「参加する気はないか?」 あのデリコの事務所から連絡があった。  みんなはスタジオに集まって大興奮だ。 「マジか?俺たちのどこがいいのかな?」 凍夜は自信たっぷりに 「当然だ。デリコって奴は、よくわかってるんじゃね?」 「その自信はどこから来るんだよ。 根拠がねぇよ。」 テツとタカヨシが納得していない。 「キースと凍夜のルックスだけじゃね?」 「ふざけんなよ! デリコの目は節穴じゃねぇよ。」  見てくれが派手なのは、業界に山ほどいる。 この頃のアーティストは、みんな優しい恋だの、愛だのを歌う。  『凍てついた夜』だって変わらない。恋の歌を歌っている。 「そんなに突出してるバンドか、俺たち?」  サブのボカロと共演してるのが、外国で受けてるらしい。 「結局、観音寺夢子が珍しいのか。」  サブが 「ボカロなんてたくさんいるよ。 『凍てついた夜』の実力だよ。」 慌てて取りなす。  降って湧いた夢のような話は、どんどん進んでいった。もうバンドのことだけではない。  チャリティの仕事をしたいバンドがたくさん名乗り出ていた。  サブの発信している「若者の孤独」にも共感するものが増えている。

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