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第142話 メガフェス 6

 いくつかのバンドの時間が過ぎて行った。 はじまってから、ずっとテンションが上がりっぱなし。有名な人気のグループがヒット曲を惜しみなく披露している。   5時30分になった。突然大音響が聞こえてきた。『凍てついた夜』の出番の直前、サウンドエンジニアの山神がやってきてシステムチェックだと、こっそりリミッターをいじって行ったのだ。 「メガフェスでは、『凍てついた夜』の音量が、 他の誰より大きかった。」  サド・ノーランが後に語った。 他を圧倒する凍夜の一人舞台だ。観客は熱狂していて、大音量が全てを圧倒していた。  凍夜のステージパフォーマンス。ステージを気取って歩いて、バレエで鍛えた身体が美しい。 大きく見える。ステージ慣れしたベテランの動き。こんな大きい舞台は初めてなのに。  会場を一つにして、観客の心を掴んだ数曲の後、静かにピアノが独奏を始める。  「別れの曲」そしてめくるめくピアノ演奏が観客を捉えた瞬間、盛り上がりで凍夜の声が吠える。悲しみの中に諦観の感じられるショパンの曲から一瞬でハードロックに引き込まれる。  レッドツェッペリンを思わせる高音のシャウト。ギターが絡む。変わりなく続いている安定のベース。ピアノを補うキーボード。  そしてセクシーなサックスが入ってくる。大きい歓声の中でも、それぞれの音がしっかり聞こえてくるのは、山神の技術だ。  そんなにヒット曲を持っていないバンドとは思えない、観客の反応だった。  ステージの後ろで踊る観音寺夢子のスクリーンが大きくて話題だった。「夢子セクシー」の掛け声がずっと終わらない。揃いのハッピで最前列で踊る夢子ファンの集団が目を引く。  あっという間の20分間だった。 『凍てついた夜』のメンバーが全員でステージ挨拶をした。  サブもあゆむを抱いてステージに立った。 凍夜が、ミコトを抱き寄せて、二人で手を振る。  キースもドラムから降りてミクオに肩を抱かれる。  テツもベースを抱えた腕で、ピアノから降りたジヌを抱く。  タカヨシも春乃さんを手招きして肩を抱いた。 松ちゃんは家族が来ていて、小さい息子を抱っこして奥さんと並んだ。 「あっ、マドンナのミカ先輩だ。」  テツとタカヨシは、初めて家族を連れてきた松ちゃんに感激している。  みんなでカムアウトした。 終わって雑誌のインタビューで、 「だってこんな大舞台は一生に一度だと思ったから、みんなで写らなくちゃ、って思ったんだ。」 と凍夜が答えていた。

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