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第4話『普通』
「井草くんおはよう!」
「……はよう」
「挨拶返してくれたぁ」
「こんな事で嬉しそうな顔すんなよ」
「だって嬉しいからさぁ」
「お前がしつこいからでしょ」
コイツと運命の番だなんだとプロポーズみたいな事まで言われ再開した高校生活マジで病みそう。
朝、俺の席まで来ておはようの連呼
昼、彩歌と亘流と弁当食べてるのに乱入
教室移動、好き好き連呼の質問攻め
休憩時間、どこへ逃げてもみつかる
下校時間、駅まで一緒に帰ろうの一点張り
「正直言って怖いマジで狂気じみてる」
「一目惚れってすごいよね〜」
「話すりかえないでもらえます?」
「そういえば今日柄本さんと早川くんは?いつも幼なじみの二人と登校してるよね」
全然人の話聞かねぇなコイツ
「彩歌は寝坊。亘流は風邪。」
「え。早川くん風邪なの」
「朝連絡来たから多分。」
返事をしながら席につく俺にそいつはトコトコと後ろを着いてきて前の席に座る。
「そこ浅野の席だよ」
「大丈夫〜浅野くんからは許可貰ってるよ」
根回しすご。
「てゆうか早川くん大丈夫なの?」
「症状は重くないらしいけど熱はあるから大事をとって休む事になったって言われた」
「そっか、症状が重くないのは良かったぁ」
「……そだね」
いつもの言動とはまるで別人みたいに優しい笑顔でほっとした様子のそいつに最近は時々接し方が分からなくなる、こっちは二日前に丁度最初のヒートから1ヶ月が経って誤差期間の三日も今日を乗り切れば1ヶ月周期じゃない事が確定するのに危機感が薄れ始めてんのかな
「どしたの井草くん?」
「べつに、なんでもない」
「ならいいけど」
コイツにだけは気づかれたくなぃ
朝のHRが始まるけれど一向に彩歌が登校してこない、ぇ、どゆこと、何かあった?ぇどうしよ、とかひとり焦っていると先生から彩歌も風邪で休みになったと言われ安堵と心配が同時にわいた。
「ほかのクラスでも風邪が流行ってるみたいだから皆も気をつけるようにねー」
先生の言葉に皆はテキトーな返事。
彩歌と亘流、大丈夫かな……
そのまま授業が始まりいつもは三人で食べている昼休憩弁当を出すついでにスマホを確認すると彩歌からメッセージが届いてた
『尚道ごめん、朝だるいとおもって熱測ったら39度近くあった、休む』
ぅゎ、、、39度、
『わかった。ゆっくり休んで。』
そう返信をしたはいいものの何気ひとりで昼飯食うの初めて。小中高と学校では必ず彩歌と亘流のどっちかはいたし大体3人だったからなぁ
「井草くん今日ひとり?」
何となく予想はしてたけど声の方へ顔を向けた
「一緒にたべよ〜」
やっぱり、三鷹悠太
「…………」
まぁ1日くらいはいいか
「わかった。いいよ」
「ホント!?」
「いつも割り込んでくるくせにこうゆう時だけ疑うのやめてよ」
「ううん!疑ってないよ」
「?」
「ちゃんと『いいよ』て同意で食べれるのが嬉しいからありがとう〜」
「……」
は、なんだよ、その笑顔
「……あっそ」
まじでわかんなぃ、調子狂う//
うちの学校はむちゃくちゃ校則が緩い。ありはするけど無いに等しいので校内であればどの生徒がどこで食べようと換気さえすればオッケーになってる。だから俺達も普段は4階の空き教室で食べてるんだけど今回もそうする事にした
「なんか井草くんと二人だけって新鮮」
「うっせー、いただきます」
「俺もいただきます」
特に俺がΩだって分かってヒートが来てからはひとけの少ないここになったんだけど、まさか一番警戒してるαとしかも二人っきりで食べる事になるとは思わなかった
「ん。どしたの??」
「ぃゃ、なんでもない」
「そ。」
暫く会話もなくお互い食べ進める
静かな教室に窓から時折穏やかな風が流れてくるから季節柄涼しくて心地よく感じる
……
……
……
こいつ、何気食べ方が綺麗なんだよな
黙ってれば見た目クールな感じなのに
……
時折流れる風に揺れる黒い髪が綺麗で
食べているので伏せ目がちになるけれど
姿勢が悪いわけじゃない、むしろ綺麗
……
……
こんな綺麗な奴がよりによって俺を好きとか有り得ないコイツだって今は運命の番なんて言葉に踊らされてるけど暫く経てば冷静になるだろ
「……」
αはαと結ばれるのが普通なんだから
わざわざΩである俺を選ぶメリットがない
「井草くんてさ」
「ぇ、ぁ、うん」
「空とか好きなの?」
「なにいきなり」
「授業中とか良く窓の外眺めてるから」
「ぁー、そう言うこと」
びっくりした見てるのバレたかと思った
「んーぃゃ、空ってゆうか俺写真撮るのが好きで窓越しに見える景色って綺麗だから。」
「おぉ〜写真すきなんだ」
「うん父親の影響で。彩歌と亘流も。」
「そうなんだぁ〜幼なじみだと家族間でも影響って受けるもんなんだね俺知らなかった」
「他を知らないけど仲はいい方かな」
あれ、なんか俺普通に話せてないか??
「どおりで3人とも仲良いしいつも一緒だからこっちも見てて和む」
「はあ??なんだそれ」
「付いて歩くだけでも楽しいもん」
「付いてこられる身にもなってほしい」
「ごめんごめん」
悪いと思ってないだろ、軽い感じで謝るそいつに少しイラついた俺は不思議に思っていたのもあって聞き返してしまった
「お前だって友達の一人や二人いるだろ」
それがたとえ俺の普通だったとしても
「弁当だって毎回彩りいいしバランス取れてて美味しそうなんばっかじゃん。親との関係だって良好だろ。お兄さんとも仲良いらしいし」
それが『=』周りの普通だとは限らない
「…………うん、そうだね」
「?」
「有難いことだよね、感謝しなきゃ」
そんな発想すら無かった事を痛々しい笑顔でそう返したそいつを見て痛感した軽率な言動をとってしまったと思った、チクチク、ズキズキと酷く胸が痛い
「ぁ、の」
ごめんと言いかけてチャイムに遮られた。
「そろそろ時間だね。教室戻ろっか」
「ぁ、ぇと…………うん」
結局謝れないまま教室に戻って午後の授業もいつも通りに進んで下校時間
「井草くん!駅まで一緒にっ」
「いいよ」
「え??」
「一緒に帰ろう」
いつも即答で断っていた俺からの返事に予想外だったのか目の前のそいつは面食らった様な表情をしたあと『そ、そっか〜ありがとう』といつもの調子を装ってはいたけれど少しだけ耳が赤い
「嬉しい〜行こうかぁ」
甘ったるい匂いが少しだけ強くなった。
「井草くん大丈夫?」
「なにが」
下校中。そいつがおどおどときいてきた
「ぃゃ、その今朝と様子が違うとゆうか俺としては嬉しいんだけど執拗くしすぎたかなって」
「……」
「ごめんね、今後はもう少し気をつける」
また痛々しい笑顔、、
「……謝んなよ」
「ぇ」
「俺の様子が違うように見えるのは多分、昼の時にお前にかけた言葉は良くなかったって傷つけたと思ってるからだと思う」
「昼って、昼休憩の時?」
「うん」
「どうして?」
「だって、っ決めつけるような事言って」
あんな笑顔させて
「俺は井草くんの言葉で傷ついた事ないよ」
「……」
「そう思わせる言動とってたなら、ごめ」
「だから謝んなって言ってんの!!」
思わず怒鳴ってしまった
そいつを睨みつけた
俺の少し前で俺を見て立ち止まってる
「お前さぁ学校では毎回毎回ズケズケずけずけ話しかけてきたり付きまとったりするくせになんなの!変なとこで気遣って嫌なら嫌って言えよ!俺が謝りたいと思ってるのに先に謝られたらやりずらいっ」
……
……
せっかく謝ろうと思って勇気だして一緒に帰ることを選んだのに中々言い出せなくて、でも駅は確実に近くなってくるしその度に焦りがわいてくる謝らなきゃ決めつけてごめんて謝らなきゃって思うのに謝らせてしまった、またあの笑顔をさせてしまった、こんな八つ当たりでしかない言葉を言いたかった訳じゃないのに
「ごめん、昼間も今も八つ当たりだから謝る必要ない。今回は俺が悪いから、だからごめん」
やっと言えた言葉も目を逸らして俯くしまつ大嫌いな相手でも傷つけたいわけじゃないのにコイツの事になると上手くいかなぃ、よく分からない感情が頭をかき乱す、分からない事だらけで最悪だ。
「井草くん」
俯く先の視界にアイツの靴が見える
たぶん向かい合わせに目の前に立ってる
「井草くんは優しいね」
「……」
「傷ついてないのは嘘じゃないんだけど正直少し動揺はした、多分それが出たんだと思う」
ゆっくりと顔を上げると目が合った
優しい目で真っ直ぐと俺を見ながら
でも何処か遠くを見るみたいに
話し続けるそいつの声に耳をすませた
「昔からなんだよね、表面上は仲良さげに出来るけどちゃんと友達って言える相手っていなくて空気読めない発言とか有るみたいで直そうとはしたんだけど結局『お前って薄情だよな』て言われて終わるかそのまま表面上の付き合いで終わり。暫くは連絡とっててもいつの間にか無くなって終わり」
「うん」
「家族間も仲が悪いわけじゃないけど会話ってほとんど無くて両親は仕事で朝から晩まで働いてるし父さんの姿を見ない事の方が多い」
「うん」
「弁当も作り置きを自分で詰めてて、前に作らなくてもいいよって言ったら母さんに泣かれちゃってしかも詰め込まずに食べなかったらさ、みれば減ってないからバレてもっと泣かれて兄ちゃんには叱られた『親を泣かすな』て」
「うん」
「そうだよな、て思った。泣かした俺が悪いから薄情者だから、だから毎朝誰もいない家で支度して自分でおかず詰めて誰もいない家に帰って一人で晩飯食って自習が終わったら家事したりして時間潰してる」
「うん」
「井草くんから友達いるだろって言われて弁当の事とか家族の事を褒める?みたいな感じで言われたのは嬉しかったけどどう反応すればいいのかわかんなくて、だってさ、こんな恵まれてるのに寂しいとか矛盾してるし贅沢だって自分でも思うもん」
「……」
「ぁー、ぃゃ、好きな人の前でカッコつけたかったのもあるかもしんない」
そう言って、またあの笑顔
「友達の作り方もしらない薄情な奴だって思われたくなくてイメージ通りの俺でいたかったんだと思う、ごめんね」
想像もしていなかった話
確かに恵まれているのだろう
表面上だとしても友達がいて
作り置いてくれる親がいて
憎んでいるわけでもなければ
愛されてる自覚もあるのだろう
でも、それが=満たされているとは限らない
「ぁ俺また謝ってるね、やっぱ難しいね人付き合いとか距離感て」
その痛々しい笑顔はお前なりの寂しいを隠す術で今までの経験から身につけてきた相手への思いやりなんだろ
「お前は悪くないよ」
なんの迷いもなく自分の口から出たその言葉に驚くことなんて無いけど目の前の相手は違うみたいだ。予想もしてなかった、そんな表情で俺を見てる。
「お前がしてきた事は悪くない。薄情だって言われても親に泣かれて兄弟に泣かせるなって言われたんだとしても。お前は何も悪くない。」
静かに驚いていたその表情が少しずつ歪んでいって口は固く噤まれて目は少しだけ潤んでた
「寂しいって感情は贅沢なものでも悪いものでも無いし俺は今の話をきいても、お前を薄情者だとは思わないよ」
数秒か、十数秒か、無言のまま俯いてた
涙を堪えるような息遣いだけがきこえた
……
……
堪えるのは男だからなのか元の性格なのか
他の考えがあるのか俺には分からないけど
落ち着き始めた頃にそいつは顔を上げた。
「井草くん」
「なに」
「少しだけ、手、握りたぃ」
「……」
「絶対に何もしない。嫌なら無理強いなんてしないしこのまま駅まで送って終わる」
「手が繋ぎたいの?」
そいつは小さく頷いた。いつもなら絶対に断るしきつい言葉をかけてるだろうけど自然と嫌だとは思わなかったから俺も目の前に手を差し出せたんだと思う
「どうぞ」
そう言って差し出した手を冷たい手がほんの数センチの指先だけを掴んだ、とても弱いチカラで、意識しなければ分からない程に微かな震えが伝わってきた
「……」
「……」
いつものグイグイはどこへやら。
相変わらず甘ったるい匂いを漂わせながら意地らしくも取れるその行動に不器用な奴だと思った、不器用な優しさ、不器用な笑顔、不器用な気遣い、イメージしていた自由な奴とはまるで違うそいつはとても不自由そうな奴だった。
「……ありがと、もぅ大丈夫」
「……」
「時間遅れたね。駅行こっか」
どうすればもっとこいつは笑えるだろう
「井草くん?」
頭がいたい、ふわふわして……力が、
「わ゛っ∑ 井草くっ、ど……っ!?」
倒れそうになって受け止められた瞬間
たぶんお互いにわかった、この感覚、
やばぃ……これ、ヒートだ…………///
苦しぃ、熱い痛いしんどぃ、歩けなぃ
「ごめん」
そいつは小さくそう言うと俺を抱き上げてひと気の少ない場所に移動すると自分の通学バックを枕代わりに置いて下ろした俺を横たわらせた
「井草くん……薬、抑制剤、どこ」
「通学カバン、中……ケース」
カバンを漁る音がして取り出してくれた薬を受け取った、持っていた水筒の水で飲んだ、
「ご両親には、連絡できる、?救急車」
救急車は嫌だったからなんとかスマホを開いて母親に通話をかけるけれど苦しすぎて上手く話せなぃ、それをみていたそいつは代わりに状況を説明してくれて迎えが来るまで他のαが来ないように守るみたいにそばに居てくれた、自分も苦しいはずなのに、お互い薬を飲んでからも俺に背を向けて、ただずっと傍に居てくれた、指一本触れてこない
ぁぁ…………すこし、あんしんする
「みたかく、」
「!?」
「ありがと……きょう、三鷹くん、が、いてくれて……よかった」
「…………っ……」
それから暫くして母さんが酷く心配した様子で迎えに来て手を貸してもらいながら車に乗った。車の窓から見えた母さんと三鷹くんは何か話していたけれど聞こえなくて運転席に戻った母さんに尋ねた
「三鷹くんは……だいじょうぶ、なの」
「大丈夫だからこのまま病院向かうよ」
その日は母さんの言葉通りそのまま病院に向かって家でヒート期間を過ごす事になったんだけど三鷹くん大丈夫だったかな、すごくしんどそうだったけど連絡先知らないから聞けない
「尚道」
「?」
「調子は?何か食べれそうなのある」
「…………母さん」
「なに?」
「三鷹くん、大丈夫だった、?」
「……」
「すごく、しんどそうで、でも俺のこと守ってくれて、たすけてくれて」
「……うん」
「置いてきちゃった、たすけてくれたのに」
熱の所為か、涙が溢れてとまらなぃ
「尚道」
母さんの手が俺の手を握った
「三鷹くんはご両親に連絡をいれてたしさっき体調も良くなったって連絡があったから、大丈夫。あんたは安静にして元気になって今度学校で会った時にお礼いいなさい。わかった?」
母さんの言葉によかったって思った
コクコクと頷いた
「ん、それで食べれそうなのはある?」
「ゼリー、すこしたべたい」
「わかった」
これで俺のヒート周期が1ヶ月だと確定してしまったけれど、それより今は早くおさまってほしい、早く、会ってお礼が言いたい。
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