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第3話 推し

 家に帰って自室でUの発売されたばかりのCDを聴きながら、僕はこの日起こった信じられない色々なことに思いを馳せていた。  心を切なく疼かせる、低く甘い歌声が奏でるバラード。それを歌っているのがまさか自分のクラスに転入して来た光だなんて。  おまけに……。僕はベッドに投げ出していたスマホを取り上げる。ラインを広げるとそこにはHIKARIという名前が増えており、タッチすると『よろしく♡』という言葉とともに二人のキスシーンが。  慌ててスマホを投げ出し、その写真から逃れる。  Uの正体が光だなんて、僕はばらすつもりは全くない。だからあの写真が拡散されることはまずないだろう。  でも、ファーストキスを奪われたのは事実だ……。  僕は恥ずかしくていたたまれなくて、ベッドに転がり枕に突っ伏した。  僕は陰キャだし、地味だし、友達もほとんどいない。勿論女の子と話すことなんか一年にあるかないかだ。だから、一生キスさえできないで終わるかもしれないと危惧さえしていた。  なのに、まさか男とキスすることになるなんて……それも自分が今一番推しているUと。  同性とのキスなんて嫌悪感しかないはずなのに、それが推しのUで、光り輝くほど綺麗な相手だったからか、ただただ複雑な気持ちだ。  でも自分と光ではあまりにも住む世界が違いすぎるから、もう明日から光が僕に話しかけてくることはないだろう。  そう考えると安堵なのか寂しさなのか分からない気持ちが込み上げて来るのだった。

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