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第5話 パシリ
「上町、購買部行ってコロッケパンとウインナーロール買って来て」
「あー。あたしフルーツヨーグルトお願い」
「俺は焼きそばパンとコーヒー」
「あたしはー……」
これはいつもの風景だ。昼休みになると僕は空気からパシリへと変わる。
「ま、待って。今メモ取るから」
僕が慌てて頼まれたものをメモに取ろうとすると、周りから馬鹿にした笑いが起こる。
「それくらい、メモ無しで行けねーのかよ。陰キャのくせに頭も悪いなんてほんと終わってる」
「ご、ごめん」
そのとき、僕の手からすっとメモが取り上げられた。
「え?」
背後に立っていたのは僕より十センチ以上は背が高い光だった。
「こんなもの買いに行かなくていいよ。おまえら、自分で食うもんくらい自分で買いにいけねーの? そんなこともできないならそっちの方が頭悪いね」
冷ややかに言い放った光に女子生徒はバツが悪そうな表情になり、男子生徒はキレる。
「光、てめぇ、こっちがちょっとちやほやしてやったからって、偉そうにしてんじゃねーぞ!! 昨日転入して来たばかりのくせによ」
今にも掴みかからんばかりの剣幕の男子生徒にも、光は動じない。
「馬鹿っぽい」
ぼそっと呟かれたセリフに男子生徒は完全に頭に来たようだ。
「てめぇ……」
光のシャツを掴んで殴りかかろうとする。その手を光は逆に捻り上げた。
「いててっ! 離せよっ」
そのまま男子生徒を突き飛ばすと、光は茫然としている僕の肩を抱く。
「のぼる、おまえ、昼飯、弁当? 俺、パンなんだけど購買部の場所分からないから案内してくれる? ついでに一緒に飯食おう」
「えっ? で、でも」
僕は異様な空気になった教室を見渡し動けずにいた。
「早く。俺腹減っちゃった」
「う、うん」
僕はおずおずと自分の席に向かい鞄の中からお弁当を取り出すと、光とともに教室を出て行く。
購買部に向かう廊下で僕は光に謝った。
「ご、ごめん。花園君」
「光でいいよ。なんで謝んの?」
「でも、花……光君、僕のせいで友達と喧嘩して」
「別に友達じゃねーし。それよりもUのファンだって言ってくれるおまえの方が親しみもてるしな」
「……見張ってなくても、僕、光君がUだってことばらしたりしないよ」
光が僕に近づくのはそれが理由だと思ったんだけど。
「別に。そんなこと心配してないけど。だってこっちにはキス写真があるんだし」
「キ、キ、キスなんて単語、そんなに大きな声で言わないでよ……」
僕が真っ赤になって抗議すると、
「おまえって可愛いのな」
光は綺麗な顔で笑った。
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