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第6話 僕だけの推し

 購買部で光のお昼ご飯を買ったあと、彼がおもむろに聞いて来た。 「どこか、飯食ういい場所知ってる?」 「いい場所かどうかは分からないけど……いつも僕がお昼食べてる場所で良かったら」 「ん。そこ案内して」  そして僕がそこに案内すると、 「あんまり飯が美味く食えそうな場所じゃないな」  光は苦笑した。  それもそのはず。僕が案内した場所は西校舎の裏庭。気が鬱蒼と茂り、陽もほとんと当たらないジメジメした場所だったからだ。  そこに置かれてる、ペンキが剥げたベンチに二人並んで座る。  こんな薄暗い場所でも、光がいるところだけはキラキラと光り輝いて見えるから不思議だ。  あっという間に四個のパンを食べ終えた光が、もそもそとお弁当を食べる僕に聞いて来る。 「のぼるさ、いつもあんなふうにパシリさせられてるの?」 「え? ……うーん……まあ」  僕は曖昧に頷く。 「嫌なことは嫌だって、ちゃんと言った方がいいよ」 「……購買部なんてすぐ行けるし、そこまで嫌だとか思ってないから」  そう別に物を隠されたり、お金を要求されたりしてるわけじゃない。ちょっと頼まれごとを代わりにしてあげたら揉め事は怒らない。  僕がそんなふうにいうと、光は深く溜息をついてもう何も言っては来なかった。  光は僕を庇ったせいで一部の男子から敵対視されるようになってしまった。  逆に女子たちには陰キャの僕にまで優しくすると人気が高まったようで、男子生徒たちはそのことも面白くないようだ。  そこに立っているだけで目立つ光は転入二日目で、学校で知らぬ人はいないくらいの有名人になった。  でも、光が実は歌手だということを知っているのは少なくともうちの学校では僕だけのようだった。そのことはやはり嬉しい。推しのUが自分だけのものみたいで。

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