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第7話 放課後の出来事

 放課後、僕が教科書を鞄の中に片付けていると、複数人の男子生徒がやって来て、いつものようにほうきと学級日誌を持ってきた。 「上町、今日も掃除と日誌頼むな」 「う、うん」  掃除と学級日誌、これはもう僕の日課のようなものだ。小さく溜息を落とすとほうきを持ち、掃除にかかろうとした。  しかし、そのときまた光がやって来て。 「今日、のぼるの当番の日じゃないんじゃないか?」  余計なことを口にする。  光を敵対視する男子生徒たちは、当然のごとくキレる。 「昼間といい、光、おまえ何調子乗ってるんだよ!? 上町は掃除が好きな綺麗好きだから喜んで俺たちの言うこと聞いてるんだよ。な? 上町」  すると僕が答える前に光が鋭い声で反応した。 「んなわけねーだろ。のぼるが大人しいからって押し付けんなよ」 「光、おまえ一回痛い目遭わないと分からないみたいだな……」 「ひ、光君、僕なら本当に――」 「いいからのぼるは黙ってろ」  そんなこと言われても光が相手にしているのは校内でも校外でも喧嘩をしなれてる男たち。  背は光の方が高いけど、横幅はほっそりとした光よりよっぽどごつくて。優男の光は圧倒的に部が悪く見える。おまけに相手は四人だ。 「光。てめぇのその綺麗な顔、見られないような顔にしてやるよ」  時代劇に出て来る悪人のごとく卑怯にも、一人の光に四人いっぺんにかかっていく。一人だと敵わないと昼休みの件で男たちは思ったのだろう。  しかし、光は強かった。次から次へと男たちの手を捻り上げ、教室の隅に転がしていく。  そして最後の男を投げ飛ばした光は僕の手を掴んだ。 「帰るぞ、のぼる」 「え? あ? で、でも」  一度に四人の男子を相手にしたと言うのに光は息も切れていない。 「ほら、早く。先生が来たら鬱陶しいだろ?」  こうして僕は光に手を引かれるまま教室を出て、学校を後にした。 「どうして、僕のことそんなに助けてくれるの? 君がUであることは助けてくれなくても僕、誰にも言わないよ」  学校の傍にある公園のベンチに腰掛けペットボトルを飲む光……雑誌のグラビアにしてもおかしくないなと思いながら僕は聞いてみた。  光は自分の分と一緒に僕にも買って来てくれたペットボトルを飲むように促しながら、言う。 「おまえがUのことをばらすとは思ってないよ。ただ俺はああいうの嫌いだから。誰かをパシリに使ったり自分の仕事を押し付けたりするのな」 「でもだからと言って四人も相手にするなんて無謀だよ」 「なんだよ? ちゃんと勝っただろ?」 「でもっ」 「心配してくれてサンキュ。でも俺喧嘩慣れしてるから」 「喧嘩慣れって……」 「二年ほど前までは俺ひどくぐれてて喧嘩なんか毎日の様にしてたからね」  僕は光の言葉に少なからず驚いた。確かに光は優等生には見えない。でもぐれてたとかワルだとかそんなふうには見えないからだ。  僕は知らず知らずのうちに光のことを凝視していたみたいだ。  突然光が吹き出す。 「それにさ、なんかのぼるってハムスターとかリスとか、そういう小動物っぽいっていうの? ほっとけないっていうか」  ……これは遠回しに馬鹿にされてるのだろうか?  僕が複雑な気持ちでいると、光はとても楽しそうに笑う。 「納得いかないなら二つ目の保険ってことでもいいよ。おまえをパシリや理不尽なことから守る代わりにUのことばらさないってね」

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