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第8話 のぼるの部屋

                それから光は、スクールカースト最上位の女子たちの相手をすることもなく、いつも僕の傍にいるようになった。  そのおかげで僕はパシリにも掃除当番や学級日誌を書くことを強要されることはなくなった。  いつも隣に光がいて、それは同時に推しのUといることでもあって。  僕は当たり前のようにどんどん光に魅了されて行った。    学校へ行くのが楽しいなんて思ったのは初めてで、誰かとずっと一緒にいたいと思ったことも僕は初めてだった。  だから僕はある日、ありったけの勇気を出して、光を我が家の夕食に誘ったのだ。  光は綺麗な目を見開いて驚いた後、 「マジで? 飯ご馳走になってもいいの?」  ものすごくうれしそうにそう問い返してきた。 「うん。光君さえ、良かったら。今日、母さんの得意料理のビーフシチューなんだ。だから光君の都合さえ良かったら」 「行く! ぜってー行く」  光は即座にオーケイしてくれ、僕も安堵し、うれしかった。 「……でも光君、家の方大丈夫なの?」 「……あー、俺一人暮らしだから。自炊も滅多にしないからのぼるの誘いはすっげえうれしい」 「へえ……」  このときは、高校生で独り暮らしなんてちょっと珍しいなと単純に思っただけだった。 「お邪魔します」  光が僕の後ろについて玄関をくぐると、中から出て来た母親が一瞬絶句して、そのあと顔を赤らめて。 「あらあらあら~、すっごいイケメンじゃない。のーくんのお友達とは思えないわ~」  うちの母親のミーハーぶりがいかんなく発揮される。  そんな母親に光は、それはそれは綺麗な笑みを見せて。 「今日はお招きいただいてありがとうございます。あ、これケーキです」  母親は完全にノックアウト。横で見ていた僕もポーっとなるくらいの王子様ぶりだった。 「ありがとう。今シチュー煮込んでるから、のーくんの部屋で待ってってね」 母親はご機嫌で台所へと向かう。  僕は二階にある僕の部屋へ光を案内した。ほどなく母親が、光が持ってきたケーキと紅茶を入れてやって来る。 「ゆっくりしといてね」  母親はにっこりと笑ったあと、小さな声で「ほんとイケメンだわ~」と繰り返した。  そして部屋に残された僕と光。  静けさに耐えられなくて、僕が、 「ねー、Uの歌かけてもいいかな?」  と、問うと、光は妖しく笑う。 「生歌聞かせてやろうか?」 「えっ?」  僕が目を大きく見開いてる間にも光は歌い出した。  伴奏も何もない。だけど音程がぶれることは全くない。切なく甘いバラード。いつもとは違う光の歌う時の声は少しハスキーででもとっても甘ったるい。  歌が終わった後、僕は泣いていた。

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