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第11話 今のひととき
「いい家族だな、のぼるんちは」
光を近くの角まで見送るため並んで歩いていると、ポツンと光が呟く。
「そうかな? でも、母さんがミーハーなのは分かってだけど、父さんまでミーハーだとは思わなかった」
僕が呆れたように言うと、光はたのしそうに笑った。
「こんなにおかずとかも貰っちゃっていいのかなー?」
光がタッパーが入った紙袋をかざして見せる。
「いいんだって。母さん、きっと光君に食べてもらいたいんだと思うし」
「サンキュ。……あ、ここまででいいよ」
角のコンビニの前で別れることにした。
「うん。……じゃ」
「じゃ、な」
去って行く背中。なんとなく名残惜しくてそこに立ち尽くして見送ってると、不意に光が歩をとめて、振り返る。
「今度さ」
「え?」
「今度、俺の家にも来てよ。豪華な夕食は出せないけど、のぼるに遊びに来て欲しい」
「え? え? 行ってもいいの?」
「うん」
光は何故か眩しそうに僕を見る。
「……初めてだよ」
「え?」
「のぼるが初めて。俺んちに招待するの」
少し早口でそう言うと、光は再び背を向けて去って行く。僕は唖然とその後姿を見送った。
家に帰って来てからお風呂に浸かって光のことを考える。
光君はどうして僕に構うんだろう?
『もっと深いキスもしてみる?』
『のぼるが初めて。俺んちに招待するの』
最強の推しにあんなこと言われてドキドキしないやつはいないと思う。
でも、僕と光君では住む世界が違いすぎるのも確かだ。
僕よりも何千倍も何十万倍も綺麗で可愛い女の子も光に夢中になっているというのに。
光は僕と一緒にいてくれる。こんな陰キャで地味な男の傍に。
バスタブから出て勢いよくシャワーを浴びながら僕は自分に言い聞かす。
あんまり期待しちゃいけない。
光=Uはいつか必ずメジャーになる。
そしたら、僕への興味もきっと失ってしまうだろうから。
今のこのひとときを大切にしよう――――。
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