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第13話 光の部屋
土曜日、光の家へ遊びに行くという僕に母さんは山程の手作りお惣菜を持たせ、お小遣いまでくれ、「ちゃんと手土産買っていくのよ」と念を押した。もうすっかり光の大ファンになっているみたいだ。
近くの洋菓子屋さんであまり甘すぎないようなゼリーの詰め合わせを買い、待ち合わせ場所へと行くと、ちょうど反対側から光がやって来るのが見えた。
相変わらず目立っていて、道行く女の人がみんな光を振り返っていく。
制服ではない光を見るのは初めてだけど、何気ないTシャツにジーンズ姿も眩いばかりにかっこいい。
光が僕に気づいて大きく手を振って来る。
「のぼる!」
その瞬間、周りの視線が僕に集まる。
う……やめて、光君。君みたいなオーラがある人間の待ち合わせ相手がこんな陰キャでみんな珍しいモノでも見るみたいな目でみてるじゃないか。
しかし光はそんなことなどお構いなしに僕に近づいて来て。
「ごめん、待った? のぼる」
「う、ううん。ちょうど来たとこだよ」
「なんだよ? すごい荷物だな」
「あ、これは母さんからのお裾分けと、手土産のゼリー」
「え? うれしー。おまえの母さんの料理美味いもんな。……手土産まで要らなかったのに、
でも、サンキュ」
光は荷物を持ってくれ、僕たちは光のマンションへと歩き出した。
光の住むマンションは築の浅い瀟洒なものだった。
オートロックを開け、エレベーターで六階まで向かう。
一番奥の角部屋が光の部屋だった。
「はい、どうぞ」
「お邪魔します……」
部屋は1LDK、トイレもバスも別々になっている。高校生の住む場所としては贅沢すぎるものだろう。
「すごい、広いね。光君の家はお金持ちなの?」
何気なしに聞いたことだったが、一瞬光の瞳に影が差したような気がした。
「ここは事務所が借りてくれてる部屋だよ。防音がばっちりでね、夜でもギターが弾ける」
そう答え、にっこりと笑う。
「ここで曲を作ったり、詩を書いたりするんだね?」
そう考えると感慨深い。
僕が物珍し気にリビングを見て回っていると、
「のぼる、そんな白熊みたいに行ったり来たりしてないで、昼飯、ピザでもいいか?」
「あ、うん……」
「はい、これの中から好きなピザ選んで。あ、俺パイナップル乗ってるの食えないからそれ以外でお願い」
そして薄い冊子を渡される。
「……うーんとね、アラビアータがいい」
と、光が意外そうな顔をした。
「どうしたの? 光君、辛いのダメなの?」
「それは俺のセリフ。のぼるってなんだか辛いものダメなイメージあるから」
笑って言うと、スマホでピザとポテトとフライドチキンを注文した。
ピザが着くまでの時間、僕は持ってきたUのCDを出し、聞いてもいいかと光に聞いたら、笑われた。
「のぼる、わざわざ持って来てくれたの? でも一応ここはU本人の家だからね、CDもあるよ。それともまた生歌、聞く?」
「……それはピザ屋さんが帰ってから」
「え?」
「だって、ピザ屋さんにUの生歌聞かせるの……ちょっとでもやだ」
実際はそんなことはありえないのだと、言ってしまってから気づく。ピザ屋さんがやってくるときはインターホンを鳴らして来るのだから。
僕が自分の言ったセリフに真っ赤になっていると、光が僕を抱きしめて来た。
「本当、のぼるって可愛い。……なあ、キスしていい?」
「え? は? 保険をしなくても、僕は光君がUだって、ばらしたりしな――」
言いかけた言葉は光の形のいい唇によって塞がれてしまう。
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