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第14話 新しい曲

 長い口づけの後、ようやく離れて行った唇が言葉を紡ぐ。 「保険とかそんなんじゃない。俺はのぼるとキスしたいからするんだ」  そして再び重なる唇。今度は先ほどのような触れ合うだけのそれではなく、もっと深いもので。 「んっ……やめ……ひか、りく……」  息苦しさに開いた唇に光の舌が入り込んで来る。  男同士のそれは本当なら気持ち悪いはずなのに、光のキスが上手いせいなのか、いつしか僕は光のTシャツをギュッと握ってキスに酔いしれてた。  長い長いキス。光から送られてくる唾液を全部は受け止めきれない。顎を伝いカーペットの床に滴る。  光が僕の顎に滴る唾液を赤い舌で舐め上げたとき、インターホンが鳴った。  その瞬間、僕は我に返り、慌てて光から離れた。光は僕の唇に、今度は触れるだけのキスをすると、ピザを受け取りに行った。  ついさっきまでの妖しい雰囲気はどこへやらUのCDをバッグに、僕と光はたわいのない話をしながらピザを食べる。……いや、僕はほとんど食が進まなかった。  話をしていても、どうしても光の唇に目が行ってしまう。  軽く触れ合うだけのキスでも僕には大ごとなのに、あんな深いキスなんて僕にはハードルが高すぎる。  何事もなかったように食事をする光がちょっぴり恨めしい。  ……慣れてるんだろうな、キス。  そんなふうに思うと、胸の奥がチクリと針で刺したように痛んだ。  話題は自然にUのアルバムのことに移っていく。 「どんな曲が入ったものになるの?」  僕が興味津々で問うと、光は、 「まだはっきり決まっていないよ」  と、もどかしくなる答えが返って来た。  U推しの僕としては誰よりも早くどんなアルバムができるのか知りたい気持ちが強いけど、まだ発売されていないものを一ファンの僕が聴くことは贅沢というものだろう。  しかし、光の言葉にはまだ続きがあって。 「でも、一曲だけ絶対に入れるって決めてる曲があるんだよ。……聴いてくれる?」   僕が前のめりになる勢いで頷くと、光は苦笑しながら僕を手招いた。 「じゃ、こっちの部屋へおいで」

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