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第15話 推しのプライベート空間

 その部屋は寝室兼光が曲を作っているところのようだった。  部屋は広く、片方に大きなベッドが置かれており、その余ったスペースにギターとピアノーーグランドピアノじゃない方――、楽譜などが置かれていた。 「適当に座って」  と言われ、ベッドを背にして座る。  正直僕は凄く興奮していた。光=Uのプライベートの最たる部屋に身を置いて。  しかし、光がピアノを弾き始め、歌を歌い始めると僕はそちらの方へ気持ちの全てを持っていかれた。  光がピアノの音色とともに歌ったのは、デビュー曲のバラードとは全く違う、ロック調の歌だった。  僕はまたしても魅了された。高音の少し光の声が掠れるところでは鳥肌が立った。それほど今度の曲もまた素晴らしかった。  そして気づけば泣いていた。  僕は陰キャだけど、決して泣き虫じゃない。情緒にも富んでない。  それほど光=Uの生歌の迫力は凄いのだ。  ポロンと最後の音を立てて曲が終わる。その頃には僕はもう号泣と言っていいくらいに涙していた。   そんな僕を見て、光は困ったように笑う。 「この曲はそんな涙する曲じゃないんだけどね」 「だって……だって、Uの声があまりにも綺麗だからっ……」 「ありがと」  光が涙する僕を抱き寄せ背中を擦ってくれる。  ようやく涙が止まって、光から離れようとしたが、離してくれない。 「光君、も、泣いてないから……」  暑い季節だというのに光からはいい香りがした。香水だろうか。  ぼんやりとそんなことを考えてた時、光がとんでもないことを言って来た。 「のぼる、セックスに興味ある?」 「は?」  突然の言葉に僕は光に抱きしめられたまま固まってしまう。 「え? は? な?」  口から出るのは意味をなさない言葉ばかりだ。

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