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第24話 プラスマイナス

「光って、髪綺麗だね。染めてるんでしょ? でも全然痛んでない」 「のぼるの髪だって真っ黒で綺麗じゃん」  僕たちはまた一つベッドの上で寝っ転がっていた。  僕はなんと光に腕枕までされて。 「光、手怠くない?」 「大丈夫」  光は随分眠そうだ。忙しい毎日を送ってるんだから仕方ない。  そのうち光は穏やかな寝息を立て始める。  僕はうっとりと光の顔を見放題に見つめた。僕には眠気はしばらくやって来そうにない。  ……眠ってしまって、起きたら、すべて夢だったって、ことないよね?  そんなふうに思ってしまうくらい、今日僕に起こったことは人生を百八十度変えてしまうような出来事だった。  光と体を繋いで、今は腕枕までされている。  今、この瞬間の光を見ているのは僕だけ。  このまま時が止まればいいのに……そう心から願う僕だった。 「のぼるー、朝だぞー」  眠れないと思いながらもいつの間にか眠ってしまったようで、翌朝、僕を起こしたのは光の声とお味噌汁の匂いだった。  明るい朝の陽の光の中、僕はまともに光の顔を見れなかったけど、光は全然動じてないようで、彼の『慣れ』を感じさせ、またしても僕の心のどこかが痛んだ。 「のぼる、どうした? 気分でも悪い?」 「う、ううん。何でもない。お味噌汁いい匂いだね」 「インスタントだけどね。あとはのぼるのお母さんの煮物と漬物」  言うと、光は傍に来て僕に覆いかぶさり、唇にチュッとキスをした。 「ひ、光っ……」 「のぼる、顔真っ赤。ほんとに、かわいー」  シーツに包まって真っ赤になる僕のことを光は笑いながら、朝食に誘った。 「さ、のぼる。立てるか? 立てないならお姫様抱っこしてあげるけど?」 「た、立てるよ」  腰とお尻に鈍痛はあったが、立てないほどじゃない。 「なんだ、残念。可愛いのぼるのことをお姫様抱っこして運びたかったのにな」  光は苦笑しながらも開けっぱなしにしてある寝室の扉を越えて先にダイニングへと行ってしまった。  僕はよたよたとおぼつかない足取りで光の跡に続いて寝室をあとにした。  ダイニングのテーブルには朝ごはんの用意がしっかりと整っている。 「光、ごめん」 「え? 何が?」 「朝ごはんの用意、手伝わないで寝ていて」 「そんなの、のぼるはお客様なんだから」 『お客様』  その他人行儀な言葉に僕が少し落ち込んでいると。 「……誰かのために朝ごはんを作ったのなんて初めてだよ」  光が気のせいか少しだけ照れくさそうに口にする。 「光……」  一喜一憂。  僕の心は光の言動でマイナスにもプラスにも激しく揺れるのだった。

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