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第25話 久しぶり

 それからしばらく光は学校に来なくなった。  きっと仕事が忙しいのだろう。  僕は光がいなければ相変わらず空気のように扱われている。ただ光の影響が大なのか僕がパシリに使われたり、掃除や学級日誌を押し付けられたりすることはなくなった。  だからこそ余計に僕の空気感は増している。  光があんまり学校に来ないので、そろそろ彼の出席日数が心配になって来る。  ただ一人ラインができる友達なのだから、一言聞いてみればいいのだろうけど、光からラインが来ないのできっと忙しいのだろうと思いできない。  つくづく自分は陰キャだと思う。  光とはセックスまでしたのだけれども、時間が経つにつれ、僕にとっては人生を変えるほどの出来事だったけど、光にとっては大勢のうちの一人であって、僕としたことをもう忘れてしまってるんじゃないかと考えてしまう。 「はあ……」  深い溜息を一つ落として、放課後の教室、僕は学級日誌にペンを走らせた。  そのとき。  背後からいきなり口を塞がれた。 「? ! ?」  僕は驚き口を塞ぐ手を振りほどこうとするが、耳元で声が紡がれる。低く甘い声。聞き覚えのある心地の良い声の主は――。 「のぼる、俺だよ」 「光……」  光は僕の口を塞いでた手をどけると、唇にチュッとキスをする。 「久しぶり、のぼる」 「……光……」 「先生から出席日数が危ないから来いって電話かかって来てさ」 「……もう放課後だよ、光」 「そうみたいだね。それよりのぼるまた学級日誌書かされてるのか?」  光の表情が不機嫌そうに歪む。 「違うよ。今日は僕が日直の日だから。光のおかげで押し付けられること無くなったよ。……光の方は仕事は?」 「一応ひと段落着いた。こっちおいでのぼる」  光が僕の方へと手を差し伸べて来る。  それを掴むと光の腕の中に包まれた。 「会いたかった……のぼる」  耳元への熱い囁きに僕の胸がキュンと鳴る。 「……僕も」  消え入りそうな声で応えると、光が強く強く抱きしめてくれる。  誰もいない教室で僕と光はしばらく抱きしめ合っていた。 「そろそろ行こうか」  名残惜しそうに体を離す光。だが手は繋いだまま。 「行くって、どこに? 帰るの?」 「違うよ、音楽室」  楽しそうに言葉を紡ぐと、光は僕の手を引っ張って音楽室へと連れて行った。

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