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第28話 寂しさ

 それでも、遊びでもいい。  今、この瞬間光を感じていられるなら。  いつか光が僕に飽きて、離れて行ってしまう日が来るとしても。  でもどうかその日が一日でも遅いように願うことしか僕にはできない。  季節は移ろい、やがてUのアルバムが発売された。  発売日よりも前に光からアルバムを貰ってたが、僕はあと二枚買った。  光は、そんなに簡単には売れないよと言っていたが、その予想は当たらなかった。  有名人がテレビでUのアルバムの話をしたのだ。覆面歌手だということも。  その影響は大きくて翌日店頭からUのアルバムが消えた。  僕は複雑な思いだった。  Uのアルバムが売れたのは嬉しい。けどその反面自分だけが知ってるUが遠くへ行っちゃった気がして。 「はあ……」  学校の昼休み、いつもの日のささない裏庭で光と一緒にお弁当を食べながら僕は小さな溜息を零した。  僕ってやなやつだな。心が狭いって言うか。売れることはUの光の望みだったんだから素直に喜ばなきゃいけないのに。『世間』にUを取られた気持ちになるなんて……。  僕が落とした微かな溜息に耳聡く気づいた光がパンを片手に聞いて来る。 「どうした? のぼる、溜息なんかついちゃって」 「べ、別に。なんでもない」  平常心を保とうと思うと、光が悪戯っぽく笑う。 「のぼるの溜息の訳、知ってるよ」 「え?」 「Uのアルバムが売れたのが寂しんだろ」 「っ……」  図星を突かれて僕は真っ赤になって自分のお弁当に視線を落とした。お弁当の中からピックに刺した肉団子をかっさらって行き、「やっぱりのぼるの母さんの料理はうまいな」などと呟きながら光は僕の頬に冷たい手でそっと触れる。 「俺もこんなに早くアルバムが売れるなんて驚いてるよ。やっぱり有名人とテレビの力は強いなって思った」 「うん……」 「でも俺がマイクを通さない歌を聞かせるのも、俺がUだと知ってるのも、スタッフ以外ではのぼるだけなんだよ。分かって?」

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