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第29話 秘密を独占
光はずるい。
こんなふうに僕に『特別』を感じさせといて、なのに、決して好きだとは言ってくれない。
いったい僕は光のなんなのだろう?
嫌われてはいないのは確かだろう。
じゃセフレ? ……光はそんな奴じゃない。
ちょっぴり規格外の友達ってとこだろうか。決して恋人にはなれない。
……ああ、それとも光には誰か忘れられない人がいるのだろうか。
僕はその身代わり?
光は恋愛経験も多そうだし、そういう誰かがいても不思議じゃない。
そんな誰かの面影を僕みたいな陰キャに重ねてるってとこが少し納得いかないけど。
ただ一つ言えることは光は決して僕を好きにならないってこと……。
「……ぼる、のぼる!」
すっかり物思いにふけっていた僕は、光の声にハッと我に返った。
「あ、ごめん。何? 光」
「だからさ、Uのアルバム聴いてくれた大勢の人たちの中で、いったい何人の人の心をゆさぶれたんだろうってさ。のぼるが俺の歌聴いて泣いてくれたみたいに、さ。きっとほとんどの人が表面だけしか聞いてないと思うんだ」
「じゃあまだ正体は明かさないの?」
「うん。事務所のお偉い方はアルバムも当たったことだし、もう正体を明かしたらいいんじゃないのって言う意見が多いんだけどね。俺は絶対に明かしたくない」
「光……」
正直よかったと思う。光が正体を明かしたら、このルックスだ。あっという間にトップスターにまで上り詰めるだろう。そしたら余計に光が遠くなってしまう。
光がクスッと小さく笑う。
「現金だな、のぼる」
「え?」
「俺の秘密そんなに独占したいんだー」
「そ、そんなこと」
……あるけど。
「大丈夫。このままU=俺だということは明かすつもりはないから。あとね数少ない俺の生歌聴ける権利はずっとのぼるのものだから」
僕は素直に嬉しかった。例え恋人同士にはなれなくても、僕は光から特別を二つも貰ってる。それ以上望んじゃいけないよね。
そのときの僕は気づいてもいなかった。
光が絶対に正体を明かしたくないと言った深い理由を――――。
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