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第33話 観覧車

「のーぼる、どうしたの?」 「…………」 「何拗ねてるんだよ?」 「拗ねてなんか、いないよ……」  そう、拗ねてるんじゃない。落ち込んでいるだけ。  光の腕に縋りつく愛は本当に可愛くて。光と凄いお似合いだった。  自分と愛を比べるのもおこがましい。  愛は多分光に憧れを抱いたはず。僕が愛でも同じだ。  二人して乗っている観覧車には気まずい沈黙が落ちている。 「のぼる」  名前を呼ばれてうつむいていた顔を上げれば、チュッと優しいキスをされた。  光が僕の肩に手を回し、そっと囁く。 「ほら見てみ。海が見える、のぼる。キラキラしてて綺麗だね」  二人を乗せた観覧車は今一番上に来ている。  観覧車から見える景色のずっと遠くの方に確かに海が見えた。少し西に傾いたお日様の光を受けてキラキラ輝いている。  すごく綺麗だけど、それよりも何倍も光は綺麗だ。  こんなに綺麗な人がどうして僕なんかの傍にいてくれるのだろう。  どうして肌を重ねるのだろう。  キスをするのだろう。  どう考えても答えは出ない。  ……僕がUの熱烈なファンだから?  いろいろ考えて悶々している僕の顎に光の細く長い指が触れた。そのまま上を向かされる。  すぐそこに光の端整な顔。それが段々近づいて来て、視界が全て光になって行って、また唇が重なった。  今度はさっきの触れるだけのキスではなく、もっと深いものだった。  光の熱い舌が僕の口内に入り込み蹂躙する。  受け止めきれなかった唾液が唇の端から溢れると、光が紅い舌でそれを舐めとる。 「んっ……、ひか、り……・ダメだよ……」 「どうして?」 「ふ……あ、誰かに、見られちゃう……」 「こんな高いところ下から見えないよ」 「そ……じゃなくて……隣の観覧車か、ら……」  見られるという言葉は光の唇によって封じ込められる。 「大丈夫、のぼる、隣の観覧車、見てみ」  キスの合間の光の囁きに、僕が隣を見れば。  そこでもキスをしている恋人同士がいた。反対側の隣も。勿論男女のカップルだけど。 「ほらな、みんな自分たちのことに夢中で回りなんか見ていない」  甘い吐息だけで囁くと光はまたキスを続ける。  好き、光、大好き。  光とのキスは僕の頭を甘く疼かせる。それと同時に痛む胸。  神様、これ以上光のことを好きにならせないで。  光の隣にいれなくなったとき、耐えられないから。  甘さと痛みの両方を感じながら、僕は光のくれるキスに酔いしれた。  
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