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第34話 別れの前日

 次の日からまた三日光は学校を休んだ。  僕は首を傾げた。  遊園地で会ったときは、しばらくは急ぎの用事は入っていないって言っていたからだ。  それにいくらラインを送っても既読にすらならない。  光のマンションへ行ってみようかとも思ったが、なんだかすごい重い存在に思われそうでできなかった。自分の部屋の窓に額を当てて呟く。 「恋人じゃないんだから……」  カーテンを乱暴に閉めたとき、ラインの着信音が響いた。  慌ててスマホを見るとやはり光からだった。 『今、のぼるの家の前にいる。ちょっと出てこれない?』  僕はスマホを持ったまま急いで部屋を飛び出した。 「光!」  三日ぶりに会う光はひどく憔悴していた。 「……ああ、のぼる、悪いな。急に呼び出して。ラインもずっと返事できなくてごめん」 「そんなことはいいけど、なにか、あった? 光」  光はしばし逡巡してから、小さな声で呟く。 「……バレた」 「え?」 「俺がUだってことバレたんだよ……」 「そんな」 「ずっと事務所に缶詰にされてた。隙を見て抜け出して来たけど、またすぐに戻る。のぼるにまで騒動に巻き込みたくないから」  光の話では明日発売の写真週刊誌に載るらしい。 「僕は光の味方だよ。なんならうちに隠れてる?」 「ありがとう。でも、それはできない。のぼる」  光が耳元で囁いたかと思うと痛いくらいに抱きしめられた。 「ひ、ひか……?」 「しばらく会えない」  その一言だけを残すと光は僕の体を解放して、そのまま去って行ってしまった。  あっという間に遠ざかっていく光の背中を僕は追いかけえることもできずにただ立ち尽くすだけだった……。  翌日。  一冊の写真週刊誌はUの記事のスクープで表紙を飾っていた。 『話題の覆面歌手Uの正体は都内の高校生!! 今売り出し中のアイドルと熱愛中か!?』  そんな言葉とともに乗せられた写真は遊園地で女性アイドルを助けたときの写真だった。  光の腕にしがみつく女の子。その子を見つめる光。  確かにそのワンシーンだけ切り取れば、お似合いのカップルにも見えなくもない。  実際は違うのに。このときは確かに僕もその場にいて、写真にも半分切れた僕が写っている。  でも悲しきかな、カメラマンのピントは光と女の子に合い、僕はぼやけてもいる。まるでその他大勢背景がごとく。  学校へ行くとU……光の話題一色だった。  僕を見つけると何人もの女の子たちが寄って来て、 「ねー。のぼるくんは知ってたの? 光君の正体」  興味津々に聞いて来る。  それに僕は首を横に振って応えるだけだ。 「ふーん……やっぱりねー」  なにがやっぱりなのだろう? 僕みたいな陰キャのこと光が友だちだなんて思っていないとでも言いたいのだろうか。  どんどんどんどん卑屈になって行く思考回路。  予鈴が鳴って、僕はトボトボと教室へ入る。いつもの光の席に彼はいない。  担任がやって来た途端、そこここから光のことを訊ねる声が上がった。担任は渋い顔で、言う。 「花園は今日付けで退学になった」  その答えに女子生徒たちは絶望めいた悲鳴を上げ、男子生徒たちは『サインもらっときゃよかったー』うそぶく。  僕は独り貧血にも似た眩暈の中にいた。  光が昨夜言った、『しばらく会えない』は、僕の聞き違いで、彼は『もう会えない』と言ったのではないか?  あれは光からのさよならだった?  僕の中でそんな考えがグルグル回って、気づけば僕は倒れていた。  
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