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第37話 関係ない
「なあ、のぼる、今からちょっと出られないか?」
「どこへ行くの?」
「俺が 今滞在してるホテル。久しぶりにのぼるとしゃべりたい」
光のその申し出を本当は断るべきだったのかもしれない。
これ以上光を好きになったら傷つくのは自分だ。
でも……。
やっぱり僕は光について行ってしまうんだ。
光が滞在しているホテルは都心から少し離れたところにある豪華なホテルだった。
そのスイートルームに光は泊まっていた。
「このホテルも明日の昼には出て行くつもり」
部屋の内装の豪華さに見入ってた僕に光がそう言う。
「そんなに写真週刊誌に狙われてるの?」
「週刊誌の方は前より落ち着いたけど……」
光の言葉は何か歯切れが悪い。
そう言えばさっきもチラッと、訳があってホテルを転々としているって言ってたっけ……。
「光、何か事情があるの?」
光が何か困ってることがあって、こんな僕でも力になれることがあるのなら、と思った。
けど、光の答えは。
「大丈夫。のぼるには関係ないから」
……関係ない……。
軽く返された言葉にひどくショックを受けた。
光の本音が分からなかった。
親友だと言い、僕の家まで会いに来るくせに、核心には決して迫らせてくれない。
唇を噛みしめ俯く僕に、光が困ったように笑う。
「何拗ねてんの? のぼる」
「拗ねてなんかいないよ! ……ねー、光僕ってそんなに頼りない? 僕じゃ光の力になれないの?」
僕が必死に訴えかけると、光はますます困ったように眉尻を下げる。
「そんなことない。のぼるはいてくれるだけで癒しになってる。でも、ごめん。今はまだ全てを話せない。いつか、そのときが来たらちゃんと話すから」
「本当? 約束してくれる?」
「ああ……でも」
「でも?」
「ううん。なんでもない。……のぼる」
光に強く手を引かれて、僕は彼の腕の中におさまった。
「ずっとのぼるの顔が見たかった」
「光……」
「やっぱりのぼるは可愛いな」
こんな陰キャで地味な僕が可愛いわけがない。
それでも光は僕に可愛いという。
そして僕も胸が切なく疼いてしまうんだ……。
光が僕の頬を両手で挟み、そっと上を向かせる。光の綺麗な顔が近づいて来てそっと唇が重なる。
最初は啄むだけだったキスが段々深くなって行って、舌と舌を絡ませる激しいものに変わっていく。
長い口づけが終わると、二人の間に煌めく唾液の糸が引いた。
「ふ……あ……」
光とのキスは本当に気持ちよくって。
「……何? のぼる、キス、だけでイッた?」
そう僕は光のキスだけで絶頂を迎えてしまったのだ。
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