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第42話 光の過去
しばらく走ると、目の前にダークグレーの車が止まった。
「光!?」
窓から二十代後半の男が顔を出す。
「マネージャー、父さんと母さんに見つかった。すぐに車を出してくれ」
どうやらこの二十代後半の男性は光のマネージャーのようだ。
「分かった。早く乗れ」
後部座席のドアを開き、光が先に僕を乗りこませ、続いて自分も乗り込む。
光と僕と光のマネージャー、三人を乗せた車はものすごいスピードで走りだした。
「光、そっちの子は友達かい?」
マネージャーがミラー越しに僕を見て光に問いかける。
「そう。親友。な? のぼる」
僕は複雑な気持ちのまま頷いた。
するとマネージャーは少し驚いたように。
「コミュ障の光に親友がいるなんてな。のぼるくん、だっけ? 光はひどい人見知りなのに、よく親しくなれたね」
光がコミュ障で人見知り?
マネージャーが言う光と僕の知る光には乖離があった。
コミュ障で人見知りなのは僕の方で、光は違うと思う。
だって初めて会ったとき、いきなりキスをしてきたような人なのだ、光は。
僕が不思議そうな顔で光を見つめていると、視線に気づいた光が照れくさそうにそっぽを向く。
「こいつ、だからです。のぼるだから俺、自然にしゃべれる」
「そう。のぼるくんは特別なんだね。……いや、ね、俺たちが初めて光と出会ったときはそれはもう手負いの獣の様だった。なにものも寄せ付けない――」
「マネージャー!!」
光が鋭い声でマネージャーの言葉をとめた。
「光、いい加減過去から逃げてばかりはいられないぞ。ご両親のことをなんとかしなきゃ。事務所の顧問弁護士を交えて一度話し合いしてみないか?」
「あいつらがそんなものに応じるとは思えないよ」
光は辛そうに呟き、僕の頭を撫でた。
「……俺が覆面歌手になったのは、勿論歌だけで勝負したいというのが一番の理由だったけど、あいつら……父さんと母さんから逃げるためでもあったんだ」
ゆっくりと光が僕に過去の話を始めた。
「さっき、のぼるも見たように俺の両親はいわゆる毒親でさ。物心ついたころには俺はあいつらのためにスーパーで万引きや客の財布を盗んだりさせられた。……ありがちな話だけどあいつらは俺が盗んで来た金でギャンブルをして負けては、また盗みをさせる……その繰り返しだった。中学を卒業するときそんな暮らしに耐えられなくなって、俺は家を飛び出した」
「光……」
思いもかけなかった光の過去。そんな辛い思いをして来たなんて……。
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