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第43話 恋してる

「俺の正体が分かったとき、あいつらはどこでかぎつけたのかマンションまでやって来て金をせびって来た。それからはイタチごっこだよ。逃げては捕まりまた逃げる……」  光がホテルを転々としてたのはそのせいだったのか……。  僕はすごく悲しくなった。  やがて車は都内の一流ホテルの駐車場に止まった。車から降りる光と僕。 「光、いいかおまえのことは俺たちが全力をかけて守るから、まずはちゃんと落ち着ける場所を探せよ。……じゃまた連絡する」  光のマネージャーはそう言い置くと去って行った。  チェックインを済ませ。そのままエレベーターで最上階まで向かう。  部屋に入った瞬間、光はソファにドサッと腰を降ろした。疲労の色が濃い。 「のぼるも座れよ」 「うん……」  僕はおずおずと光の隣に座った。 「やになった?」 「え?」 「俺のこと。あんな最低な親持って、重い過去背負ってる俺のこと」  光が自嘲するように言う。  僕は光を抱きしめた。 「のぼる……?」 「やになんかなるはずない……!」  僕は光の腕に抱きついたまま首を横に振る。 「僕……なんか力になれない? 光の支えになれない……?」  泣きながら訊ねる。光は僕の頭をそっと撫でながら。 「ありがとう……のぼる。でも俺の家族のことでおまえにまで迷惑かけたくないから」  無理をしているとはっきり分かる微笑。その表情を見た瞬間僕の中で光に対する愛しさが堰を切ったように溢れた。 「迷惑なんかじゃないっ。僕は……」 「……のぼる?」 「僕は光が好きだから」  セックスのときの睦言でもない。『親友』としてでもない。 「光に恋してるから」  光は薄く唇を開け、驚いている。 「……光は僕のこと、そういう感情では見てくれないの?」  必死になって光の綺麗な瞳を覗き込む。絡み合う視線。だけど光は目を逸らしてしまう。  そしてゆっくりと告げられた答えは……。 「ごめん」  僕を寄せ付けないものだった。  涙で滲む光の綺麗な顔に向かって僕は問いかけた。 「じゃどうして光は僕とセックスするの? 僕を抱くの?」  本当はとっくに分かっていたこと。本当の親友同士だったらセックスなんかしない。  光は顔を背けた。そして決して僕の方を見ようとはしないで言葉を放つ。 「……ごめん、のぼる、今日は帰ってくれ」

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