45 / 51
第45話 恋の嵐
「のぼる!」
何故か光が後ろから抱きしめて来た。嗅ぎなれた光の香水の匂いがすぐ近くに感じる。
「嘘だよ。興味がなくなったなんて嘘。俺は――」
「光?」
僕はなにがなんだか分からなかった。
「愛が昨日泊ったのは本当だけど、何もなかった。迫られたけど……その、勃たなかった」
「光……」
「愛のことは妹のようにしか思っていない。それはこれから先も変わらない」
光が僕の体の向きを変え、正面から見つめ合う形になる。
涙が我慢を越え、僕の頬を伝わる。
光がそれをそっと舌で触れようとするのを、僕は手を突っ張って止めた。
「僕はいったい光の何なの?」
「ごめん……」
「謝って欲しいわけじゃない!」
「…………」
「光って、どこかに想っている人隠してる?」
「え?」
「光の『好きな人』ってどこにいるの?」
「それは……」
光の顔が苦し気に歪む。
「僕は『親友』愛ちゃんは妹。じゃあ光の恋する人っていったいどこにいるの?」
僕は重ねて聞いた。
光は目をきつく閉じてから、ゆっくりとそれを開いた。綺麗な澄んだ瞳にはみっともなく泣きじゃくる僕が映ってる。
光は僕の髪をすきながら、何かを迷うふうにしてから、その言葉を紡いだ。
「俺が好きなのは、恋焦がれているのは、のぼる、おまえだよ」
それを聞いたとき、僕はもういい加減にして欲しいと思った。
どうして、光はこんなに僕の心を弄ぶのか。
興味がなくなったと言ったその口で、恋焦がれてるのは僕だという。
そんなの信じられるはずがない。
「のぼる……」
光の端整な顔が近づいて来て、キスをしようとして来た。
僕はその光の顔を思い切り平手打ちする。
「僕を馬鹿にするのもいい加減にしてよ!!」
光の頬にくっきりとついた僕の手のひらのあと。
「……痛っ……」
思いのほか僕の平手打ちは力が入っていたのか、光の唇の端が切れていた。
光が鋭い視線で睨みつけて来て、僕をすくいあげるように抱き上げると、そのまま奥にあるベッドの上へと乱暴に降ろされた。そのまま僕の上に覆い被さって来る光。
僕は全身で抵抗を示した。
「やだっ……! 嫌だっ……」
手をめちゃくちゃに振り回して、拒絶の意を示すが、光は頭の上で僕の両手を拘束する。
このまま大人しく抱かれるのだけはごめんだった。
僕は自由が利く左足で、思い切り光の腹部を蹴り上げた。
「……っう」
光が呻いて、僕の体の上に落ちて来る。
光の体の下から這い出ようとした僕は、そのとき初めて気づいたのだった。
光が泣いていることに――――。
ともだちにシェアしよう!

