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第45話 恋の嵐

「のぼる!」  何故か光が後ろから抱きしめて来た。嗅ぎなれた光の香水の匂いがすぐ近くに感じる。 「嘘だよ。興味がなくなったなんて嘘。俺は――」 「光?」  僕はなにがなんだか分からなかった。 「愛が昨日泊ったのは本当だけど、何もなかった。迫られたけど……その、勃たなかった」 「光……」 「愛のことは妹のようにしか思っていない。それはこれから先も変わらない」  光が僕の体の向きを変え、正面から見つめ合う形になる。  涙が我慢を越え、僕の頬を伝わる。  光がそれをそっと舌で触れようとするのを、僕は手を突っ張って止めた。 「僕はいったい光の何なの?」 「ごめん……」 「謝って欲しいわけじゃない!」 「…………」 「光って、どこかに想っている人隠してる?」 「え?」 「光の『好きな人』ってどこにいるの?」 「それは……」  光の顔が苦し気に歪む。 「僕は『親友』愛ちゃんは妹。じゃあ光の恋する人っていったいどこにいるの?」  僕は重ねて聞いた。  光は目をきつく閉じてから、ゆっくりとそれを開いた。綺麗な澄んだ瞳にはみっともなく泣きじゃくる僕が映ってる。  光は僕の髪をすきながら、何かを迷うふうにしてから、その言葉を紡いだ。 「俺が好きなのは、恋焦がれているのは、のぼる、おまえだよ」  それを聞いたとき、僕はもういい加減にして欲しいと思った。  どうして、光はこんなに僕の心を弄ぶのか。  興味がなくなったと言ったその口で、恋焦がれてるのは僕だという。  そんなの信じられるはずがない。 「のぼる……」  光の端整な顔が近づいて来て、キスをしようとして来た。  僕はその光の顔を思い切り平手打ちする。 「僕を馬鹿にするのもいい加減にしてよ!!」  光の頬にくっきりとついた僕の手のひらのあと。 「……痛っ……」  思いのほか僕の平手打ちは力が入っていたのか、光の唇の端が切れていた。  光が鋭い視線で睨みつけて来て、僕をすくいあげるように抱き上げると、そのまま奥にあるベッドの上へと乱暴に降ろされた。そのまま僕の上に覆い被さって来る光。  僕は全身で抵抗を示した。 「やだっ……! 嫌だっ……」  手をめちゃくちゃに振り回して、拒絶の意を示すが、光は頭の上で僕の両手を拘束する。  このまま大人しく抱かれるのだけはごめんだった。  僕は自由が利く左足で、思い切り光の腹部を蹴り上げた。 「……っう」  光が呻いて、僕の体の上に落ちて来る。  光の体の下から這い出ようとした僕は、そのとき初めて気づいたのだった。  光が泣いていることに――――。

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