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第46話 分からない

「ひ、光?」  光の宝石のような綺麗な瞳から涙が零れ落ちるのを、僕は茫然と見ていた。  すると光が僕の腹部にまるで縋りつくように抱きついて来て、掠れた声で言葉を紡ぐ。 「……好きだ……のぼる……。でも俺はおまえと恋人関係にはなれない……」 「……光……?」  僕はそっと光の明るい色の髪を撫でる。 「……優しくしないで。俺はのぼるに優しくされる価値なんてないんだよ」  光が消え入りそうな声でそんな悲しいことを言い、僕から体を離す。  その目にもう涙はなかったけど、いつもの明るく強いまなざしもなかった。 「光……いったい何がそんなに苦しいの? 何がそんなに光を苦しめているの? 僕じゃその苦しみを消すことはできない?」 「…………」  僕みたいな陰キャでへたれな人間に光の屈託を消すことなどできないと分かってはいたけれども、話を聞くくらいはできる。  僕が必死に光にそう伝えると、彼は俯いたまま口を開く。長めの前髪に隠されて顔は見えない。 「……俺はのぼるが好き。最初に逢ったときからなんとなく気になる存在で。俺の歌を聴いて泣いてくれるとこや、ちょっとした仕草とかが可愛くてたまらなかった。のぼるは自分のこと陰キャとか言うけど、別に陰キャって悪いことじゃないじゃん。ただ少し引っ込み思案ってだけで、俺はのぼるのそういうとこも好き」 「光……」  僕は光の告白を信じられない思いで聞いていた。 「最初は自分の気持ちがよく分からなかった。男同士だし、単なる好奇心かもしれないと思ったし。でものぼるを抱けば抱くほど、気持ちは強くなって行って。いつしか自分がおまえに対して本気になってることに気づいた」  光が顔を上げる。弱弱しく笑いながら、その細くて長い指で僕の唇をそっとなぞる。  僕はと言えば光のそんな告白がどうしても信じられなくて、ただぽかんと唇をあけたままだ。  光が僕を好き?  そんなの嘘だ。  信じた瞬間また突き放されるに違いない。  それとも嘲笑されるか。 「そんなの信じられない。僕のことをからかうのはもうやめてよ」 「信じられない? そうだろうな。俺、自分の想いかなり抑えていたから」 「抑えてって……どういうこと?」 「どんなときでも親友というスタンスでいて、それ以上にはならないこと。そして『好きだ』という言葉は絶対に言わないこと」 「どうして?」  次の瞬間、今まで弱弱しかった光が急に明るく笑って。 「……俺、虐待されて育ったんだ」  まるで『ご飯でも食べに行かない?』とでもいうような口調で光は衝撃的な言葉を口にした。

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