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第47話 虐待
「虐、待?」
「そう。あのギャンブル依存症の両親に。……のぼるも知ってるだろ? 俺の体に目立つ傷跡があることは」
「う、ん」
喧嘩でついた傷跡かと思っていたもの。
「あれは父親に包丁でつけられたもので、ずっと俺は虐待を受けてた。殴る蹴る。でも顔とか目立つとこには傷跡はつけない。泣くともっとひどい暴力が待ってたからいつの日か声を出すのも我慢して。親の虐待に比べたら同年代の相手との喧嘩なんか子供の遊びみたいだった」
「光……」
壮絶な過去をことさら明るい声と口調で話す光が怖かった。
だが、不意に光の顔から表情が消える。
「俺はさ、のぼる、そんな父親と母親の血を引いた人間なんだ。よく言うだろ。虐待されて育った人間は自分もまた虐待をするって……俺はそれが怖い。のぼると恋人同士になったら、俺もいつかのぼるにひどい暴力をふるってしまうんじゃないかって思って」
「だから、好きだって言ってくれなかったの?」
光が頷く。
「好きだって言ってしまったら、俺たちの関係が『親友』から『恋人』に変わった瞬間、俺の中で何かが切れて、おまえに暴力を振るうようになってしまうんじゃないかって。それだけは避けたかった。なのに、どんどんおまえへの気持ちは大きくなって行く。顔を見ると触れたくなって、のぼるから好意を向けられると、どうすればいいのか分からなくなった」
「……光……」
「好きだけど好きになっちゃいけない……。あんなクズの親の血を引いてるんだ。俺だっていつ豹変するか分からない……!」
「光……もうやめて!」
僕は光の頭を抱きしめた。
「そんなことでもう苦しまないで。僕だってさっき光のこと蹴っ飛ばしたしっ……」
光が僕の腕の中で小さく笑う。
「……あれは俺がおまえを襲おうとしたからで、正当防衛だろ」
「光は僕に暴力なんて振るわない。光は優しいもの」
「優しくなんかないよ」
「優しいよ。優しくなけりゃあんな歌、作れないし歌えない」
「のぼるは俺のこと買いかぶりすぎ」
自嘲的に言葉を重ねる光に、僕はらしくもなく怒鳴った。
「いい加減にしろよ! 光は僕のことか弱い女の子とでも思ってるの!? 僕だって大人しく暴力なんか振るわれていないし、光がひどいことして来たら思い切り抵抗してやるんだから!!」
陰キャで普段は声も小さめの僕。
そんな僕が初めて声を荒らげた。
そして光を抱きしめる腕を強める。
「僕が光を守る。光のこと幸せでいっぱいにして暴力なんか震わせない」
何を偉そうにって思われるかもしれないけど、もうこれ以上光が苦しむところは見たくない。
その一心で僕は叫んでいた。
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