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土曜日の遅い朝食②
愛くるしい顔をむけるもこもこに、俺は添えられたスプーンを差し込む。掬って口に運んだ泡に味はなかったけれど、続けて口をつけたカップの中身は驚くほど美味しかった。
「美味しい!」
甘くて、少し苦くて、温かい。せっかくの猫が崩れてしまったのは勿体無いけれど泡と一緒に喉の奥へと流し込むと体全体がぽかぽかした。
「そりゃ結構」
俺の感想に満足いったのか男も別で用意していたカップに口をつけた。、その中身は黒々としていて俺とは違ってコーヒーを飲んでいることが伺えた。
コクコクと喉を鳴らしてカフェオレを飲んでは、ふかふかのホットケーキを削っていく。俺はパンケーキに夢中になって、男がじっと俺を見つめていることに気づくのが遅れた。いつから見られていたかなんて勿論わからない。
「なんだよ……」
フォークを口に咥えて男を睨み返す。
「あ、お金?」
「んなもんいらねーよ。ガキからせびってどうする」
「じゃあ何」
「本当に美味そうに食うなって思っただけ」
カウンターの反対側で頬杖を付いた男は俺を見てどこか満足気だ。
「……何も聞かねーの?」
「聞いたら答えんの?」
質問を質問で返されて俺は口を閉ざした。
別に聞かれたくない訳じゃない。ただ自分の身に起きた出来事が自分でも未だ整理できていないだけで。
「名前は?」
先に口を開いたのは男のほうだ。
「……大貫三治 」
「………お前、そんな形してて名前がオオヌキミツハル?」
「う、うるさい!笑うな!」
別にこんな容姿に生まれたくて生まれたんじゃない。
金色のまっすぐな髪も、丸くて青い目も、全てが母親譲りなのだ。
身長も平均男子のものより低いけれど、まだこれから伸びるって信じている。いや、父親は背が高かった気がするから絶対伸びるはずだ。伸びてくれなきゃ困る。
背といえば目の前の男だ。
まだ笑いの余韻の中にいる男をまじまじと観察する。
根本から毛先まで真っ黒な髪は先端に向かうほど少しウェーブがかかっていて、目にかかりそうなほど長い前髪は横に流している。
笑いすぎて少し涙ぐんだ目は黒い。俺とは正反対の色を持った男は非常に整った顔をしていた。そして真上を向かないと視線が合わない高身長。
「なんかムカつく」
「はい?」
「なんでもない。俺は名乗っただろ。お前の名前は」
「俺は天塚 。天塚匠 。巨匠の匠って一文字でたすく。あと100パーお前より年上だから名乗ったからにはせめて名前で呼べ」
フォークを口の中から一旦出して、喉まででかかった言葉を飲み込んでしまう前に俺は口を開いた。
「匠……ありがとう」
泊めてくれて。
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