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土曜日の慣れない初デート①

*** 昨日、店を閉めた後の話。  店の近くの裏通り。お世辞にも治安が良いとは言えない路地裏で、さらに奥へと走り抜けようとする子供を見つけた。見て見ぬふりをして、放っておいてもよかったのに俺は側を駆け抜けるそいつの腕を条件反射で掴んでいた。  理由はその子が泣いていたからだ。  咄嗟に掴んだ腕と、日頃と同じ調子で口をついた言葉に振り返った女……は俺を今にも刺しそうな目で睨んで叫んだ。  そうして俺は第一声から己の間違いを認識させられた挙句、清楚そうな見た目を裏切る喚き散らかして五月蝿いだけのクソガキを、一度は閉じた店へと連れ込んだ。    もう3月だが、外は寒い。    特に日付を跨ぐようなこの時間は真冬同然の寒さだ。そんな中この子供はどこに行こうとしてたのだろう。  一度は閉じたガスの元栓を開いて、何か飲みたいものはあるかと聞く俺の声に返ってくる言葉はなかった。  室内の一番奥のソファ席で子供は体を横に倒し丸め、眠っているようだった。 「未成年で、この時間。現状俺の立場は未成年なんたら誘拐罪か?おもしろくねぇ」  店の奥から持ってきた毛布を子供の体にかける前にポケットに探り入れる。だが期待したものは一切でてこず首を捻る。 今時の子供が財布もケータイも身につけず家の外を歩き回るだろうか。未成年の間は持たせない、という親も勿論いるが……どこをどうみても、歪んだ家族構成とか特別な理由がなければこの目の前で警戒心もくそもなく眠りこける子供は全力で愛される側だ。  天井から吊るされた照明に反射してキラキラと光る金色の髪に、涙の筋がまだ残っている陶磁器のように白い肌。  俺を射抜いた瞳は、一瞬だったけれどそれはそれは綺麗なコバルトブルーだった。俺は人形には一切詳しくはないが海外の美しいとされる人形がこんな見た目をしていることは知っている。生まれてこの方、こんな毛色をした人間をこの土地で見るのは今日が初めてだけれど。  閉じた瞼の先で金色のまつ毛がふるりと揺れて掛けた毛布が肩から落ちかける。  それを掛け直して、俺は今夜店で泊まり込むことを悟った。  朝になっても起きない子供は昼になって漸く目を覚まし、警戒心というものを少しだけ見せたがすぐに年頃の真っ直ぐな物言いになる。それはもう俺がそんな単純でいいのかと心配になるほどに。  名前を尋ねれば大貫三治と、顔には似合わない名前を答えたその子供はそれ以外を尋ねても答えなかった。  全てを答えるのがまだ怖いのか、それとも他に事情があるのかはわからない。けれど俺がいつまでも匿うのは現実的に問題がある。  子供の言い分を適当に聞いて、適当に構って、どうしようもなければ警察に引き渡す。 これが最善と計画し今日の俺のスケジュールは決まった。 「ハルちゃん、俺とデートしようか」 「は?」  流し場で顔を洗っていたハルが、顔を上げる。 前髪から滴り落ちる水滴が顎をつたって床に落ちる前に手の甲で拭いながら、元から大きい目を殊更開く。  そしてすぐに疑念たっぷりの視線に変わった。

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