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土曜日の慣れない初デート③

「なぁ、どこいくんだよ」 「どこって、デートって言わなかったっけ」 「デートって男と女がするもんだろ?俺は女じゃないぞ」 「お前女扱いに過剰反応しすぎ。一周して、女扱いにして欲しいのかとさえ思う」 「んなわけあるか!」 「なら黙って着いてこいって。それとも今ここでハルちゃんの事包み隠さず全部教えてくれる?」 「それは……」    言葉に詰まって俯くと匠が宥めるように俺の頭をワシワシと撫でる。  なんであんな時間にあんな場所にいたのか。正直今の俺は匠にしか縋れないのに、縋りたいと思う匠にすら、本当の事を話すのが怖いと感じてしまっている。話そうとすると舌が口の中でキュッと縮こまる。  匠の世間話のような会話の中で、俺の今いる大体の場所の検討はついていた。記憶が正しければ電車で1時間ほどで家に帰れる場所だ。  少しでも目処が付くと、安心できた。  土地勘のない場所で闇雲に走って警察より先に匠に拾われたから警察に頼る選択肢は今の時点まで生まれなかった。  でも改めて警察に頼るとなると家族に心配をかけるから選びたくないという気持ちが出てくる。    もう無断外泊をした事に変わりはないのだけれど。   「おれは……詩子ちゃんと二人で暮らしてるから。その……あまり迷惑掛けたくなくて。もしかしたらもうすっごい探されてるかもしれないけどっ、でも」    今家に帰る選択肢を選ぶことだけは、できない。  今更葛藤と匠への信用をかけた天秤がぐらぐらと揺れる。こんなに良くしてくれた匠に傾かないのは葛藤の上に見えない俺の"臆病"が乗っているのは誰よりも一番俺がよく分かっている。   「……ごめん」    暫く黙った後、俺の口から出たのはそんな素っ気ない謝罪だけだった。   「……大丈夫、心配すんなって。どうしてもどうにもならなかったら、しゃーねぇから最後は俺がなんとかしてやる」 「……え」 「帰んだろ?」 「…………ん」 「じゃあ俺に任せとけって。話したいことがあったら都度教えてくれたらいいし。そうだな、ハルちゃんのスリーサイズでも勿論歓っいたた」    匠が言い終わる前に俺は匠の脇腹を思い切り抓ってやった。 もっと他に手が出せる場所があれば良かったが、生憎昨夜と異なり陽の下でみる匠は本当に俺とは全く異なる生き物で。何を食って育てばそうなるのか知りたいぐらいだった。   「お前、でかすぎなんだよっ」 「186あるからね」 「ひゃくはちじゅうろく…………」    そりゃあ首を真上に上げないと視線も合わないはずだ。逆に言うなら匠は俺と会話して視線を合わせようとするたびに真下を向かなきゃいけないわけで。その身長差を頭に描いて少し悲しくなった。それを勘付いたのか匠が意地悪そうに俺に笑った。   「ハルちゃんは何センチ?」   ヒクリ、と口の端が痙攣した。  頼りになるかと思えばすぐに人を揶揄おうとする。   「うっさい秘密だ!!!」

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