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土曜日の不穏な視線①
また突発的な。
でも昨日宿めてもらったのはバーだから、流し台はついていても風呂はもちろんない。
なので俺は入っていないし、……多分匠も入りそびれているのだろう。
「え?何。本当にどこ行くの。俺あんまりここから離れたくない」
繋がれた手を軽く引っ張ると視線だけで俺を見た匠が苦笑した。
「そんなには遠くに行かないし、どの道服ぐらい着替えたいだろ」
「え、ちょっ」
匠は面倒くさがる俺を適当に寄ったメンズのファッションショップに押し込んだ。
寄ってきた店員が俺を着せ替え人形にし始めたので、俺は早々に匠を置いて店を後にする。
女じゃあるまいし、二日や三日同じ服であってもかまわないのに。そりゃあ下着まで一緒っていうのは気持ち悪いから嫌だけど。
俺はあまりファッションに興味がないから、匠だけがショップの中に入っていくのを見送っては迎えるを繰り返した。そのたびに匠の手に紙袋が増えていく。
日陰になっている壁にもたれて匠を待っていると、匠はケータイを肩と首で器用に挟みながら店から出てきた。
どうやらどこかに電話をかけているらしい。その様子を横目で見つつ待っていると電話を終えた匠が「お待たせ」と言って俺の頭を撫でた。
「あのさ、聞きづらいんだけどその中にもしかして俺のもあるの?」
「なんでないの」
「いや、だって俺金持ってないって言ったよね。後から請求されるっていうのもちょっと困るし」
「朝も言っただろ、ガキからせびる気はないって」
「そうは言ってもだな…」
今何時だろうか。
バーを出る時は12時を超えるか超えないかぐらいだった。
デートというより匠の一方的な買い物に付き合って、絶対に一時間以上は経っている気がする。
「あぁ、ごめんまた電話だ」
「ん」
道の端に寄る匠に手を振って、俺は辺りを見渡した。
人通りはさらに多くなった気がする。どこかに時計が設置されていないかと遠くを見ると、道路を挟んで向こう側に設置されているベンチに座っている男と目が合った気がした。
ベンチは向こうの建物に向けて設置されているというのに、態々そのベンチに座ってこちら側を見ている。
男はさっと顔を逸らしたが、隣にいる別の男がまたこっちを振り返った。
視線が合って、言いようのない気持ち悪さを感じ俺は数歩後ずさって背中から何か大きなものにぶつかった。
「うっわ?!」
「おいおい、歩くならまっすぐ歩けよ」
「なんだ、匠か……」
「なんだって、何」
「いや、ちょっと。……なんでもない」
俺の後ろには電話を終えた匠が立っていて、先ほど男たちがいたベンチを見ると、そこには誰も座っていなかった。
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