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土曜日の不穏な視線③
***
「君はいつも突然だ」
事前に電話だけして勝手に上がり込んだ家の奥、その男は俺を見るなり面倒そうに口を開いた。黒縁のメガネが特徴的なその男は青い台……ストレッチャーに体重を預けて俺を見る。
勿論一般家庭にストレッチャーなどというものが無いのは俺だって知っている。
だがこの家に入るとそれが違和感無く受け入れられるのだからおもしろい。
ちなみに男の眼鏡は伊達で、それがないと年相応に見られないからだ。所謂童顔。
「僕は君が言う事に対してノーと言える権利を持たないとよく知っているはずだ」
「うん?お前また縮んだ?」
「話きけよ。二十代後半の男捕まえて背が縮んだとかどうして考えつくんだ。もしあるとしたら僕が縮んだんじゃなくて君が伸びたんだよ!」
「俺の成長期はとっくに終わってる」
「当たり前だろ。それ以上でかくなってたまるか。それに僕は172!平均はあるんだ」
「満より小さくないか?」
「君んちの物差しで計ったら大概の男は面子なんて保てないよ」
恨みがましい視線で俺を睨みつけてくる男は腰を預けていたストレッチャーから離れると、近くにある模型に手を突っ込んで目的の物を掴むと俺の方を見ずにそれを投げた。
顔の前に躊躇なく飛んできたそれを俺は片手でキャッチする。
「はい、頼まれてたもの。感謝してくれていいよ。手に入れるのすっごい面倒くさかった」
「緒方」
「そもそも僕に探偵の真似事みたいな事させるのが間違ってる。僕は医者であって、こそこそと人様の事情を調べるような特殊スキルは持ち合わせてないんだ」
「お前医師免許もってないだろ、医者を名乗るならまず免許取ってから言えよ。それよりもおい」
「なんだよ、もう当分頼み事は聞かないぞ。それがバレて実家に勘当されたら僕はもう満君のところにいくしかない」
「好きにしろよ。五体満足で朝日を拝める保証はしねぇぞ。……そうじゃなくて。これ何、どの部分」
俺の手の中には棒状……っぽい臓器の模型が転がっている。
俺の手を見て言葉に詰まった緒方が、視線を泳がせる。
こいつ、さては本命をどこにしまったか忘れたな?
「おい」
「あ、いや待て。思い出したぞ」
思い出したって、忘れてんじゃねーか。
三秒ほどしてまた模型の中に手を突っ込んだ緒方は俺の手の中にある臓器を鷲掴んで奪い去り、代わりにさらに小さい無機物を置いた。
「これで問題なしだ」
「大有りだ馬鹿野郎」
間違って渡された人体模型の一部の代わりに、改めて渡されたのはボディの黒いフラッシュメモリだ。
「なんでこれがそんな人体模型の中に入ってんだよ」
「隠し場所にはぴったりだろ」
俺は辺りを見渡してため息をつく。周囲の状況がこうでなきゃ説得力も多少はあったのかもしれないが。
いや、やっぱり信じないかも。こいつは昔から変人極まっている。
「そういう事はこの床に散乱しまくった骨と瓶詰めをなんとかしてから言えよ、変態」
「君って本当失礼な奴だな」
「失礼って言葉が可哀想だから使うのやめ……」
手の中でフラッシュメモリを転がしていると、俺がきた方向から、つまり風呂場から三治の悲鳴が聞こえた。
「え、あれ?他に誰かいたの」
「………………風呂貸せっつったろ」
なんとなく何が起きたのか察して俺は片手で頭を抱えた。
「聞いてるけど、ツレがいるとは聞いてないじゃん。まだ君がここにいるから片付けてなかったんだよね、僕のコレクション達」
フラッシュメモリをポケットの中に閉まって俺はのそりと風呂場へ足を向ける。
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