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土曜日の不穏な視線④
着替えの置かれた籠には、同じように脱いだ服も積んであった。
逡巡した後、まぁいいか。とバスルームを覗くと、怯えきった青い目と目が合った。
「たったっ、たす」
「あいつ、何やってんだ……」
「な、何これ、ど、どうしてこんなっ!ここ何?!」
周りのことが一切見えていない三治が俺の腰あたりに勢いよく抱きついてくる。それをどうどうと宥めて俺はまた風呂場に目をやった。
学生時代、理科室で見るあれやこれやの瓶詰めが、立派なバスルームの、正確にはバスタブの中にみっちり敷き詰められていた。
異様というか、まず普通に暮らすなら必要のないホルマリン漬けの数々は云うまでもなく全て緒方のコレクションだ。
「あー、ごめんごめん。整理中で置き場考えてて。安心して、今家の中大体こんな感じだから」
「どこに安心する要素があんだよバカタレ」
廊下続きの部屋からひょっこり顔だけを出す緒方。
俺は腕の中にすっぽりおさまって、バスルームの中を見ながら「あり得ない!気持ち悪い!」を連呼する三治の肩を撫でて宥める。
うん、ハルちゃん素っ裸なんだけどね。きっと気づいてない。
「ハルちゃんハルちゃん、俺は気にしないけど大丈夫?」
「は?!何が……っむ、向こう向けー!!」
「あいたた、体押さないで。見てない、何も見てないから。ほら身長差で見えなっ」
実際距離が近くて俺の視界に映るのは三治のつむじぐらいなのだが、俺の失言を三治は聞き逃さなかった。
どすっと片足を踏まれて言葉を飲む。裸足で踏まれているので全く痛くはないのだが腕の中から睨みあげてくる三治の視線といったら、今この場にナイフでもあれば突き刺しそうな鋭さだ。
「余計なこと言うんじゃねぇ」
「理不尽すぎない。抱きついてきたのはハルちゃんなのに」
見る人が見れば絶賛しそうな容姿を持つ少年は、中身は全くもって年相応の少年だ。顔を耳の端まで真っ赤に染めて俺から素早く離れるとその場に座り込み体育座りをして体を丸めた。
ただでも小さいのに、さらに小さく見える事を伝えるべきか否か。俺はバスタオルを手に取ると三治の体を包むように掛けてやる。
「どうするこれ」
「無理。こんなのと一緒になんて風呂どころか、シャワーすら無理」
怖いなら一緒に入ってやろうか、と言おうとしたのを寸前で黙る。流石にそれはお巡りさんのお世話になりそうな気がしたからだ。
ただ三治の方が俺が言おうとして踏みとどまった内容を曲解したらしい。
「ガキじゃねーよ。普通あんなの怖いって思うだろ」
「うん、確かにあれは普通風呂場にあるものじゃないから気にしなくていい。俺が退けるからハルちゃんはちょっと待ってて」
そうして俺はバスタブの中にあった得体の知れない瓶詰めを廊下に一列に並べる羽目になった。
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