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土曜日の不穏な視線⑤

*** 「新蘭緒方(シンランオガタ)、二十六歳。苗字みたいだけど、緒方が名前。匠の幼馴染だよ、よろしくね!」 「大貫三治……、十六歳。です」 「十六?!わっかー、俺と十歳も違うじゃん。いいね、高校生?」 「……、です。」    交代で風呂に行った匠を見送って、俺は親蘭緒方と名乗る男と何故か二人でお茶をしている。  クリーム色のVネックのセーターと、ジーンズといったラフな姿。そこに少し太目で黒縁のアンダーリムの眼鏡をかけた男性だ。  部屋の端を飾る人体模型、下半身が崩れた人体骨格模型、棚にあるのは人なのか動物なのか見分けのつかないナニかの瓶詰め他、他、他。  勧められた丸椅子に座り、出されたお茶を両手で囲う。  正直こんなに居心地の悪い部屋は初めてだった。  どっちを向いても、目に入れたくないものが飛び込んでくる。少し足を動かせば、小さな物を爪先で引っ掛けたようで机の下を見ると白く長い何かが落ちていた。    あぁ、…………骨だ。   緒方と名乗る男が座っているのはよくドラマとかで出てくる人を運ぶ青い台。名前は知らない。    「ここ……家、なんですか」 「家っていうか、僕の秘密基地」 「そうなんですか」    俺は手の中にあるマグカップを見る。  中に入っているのは緑茶のようだが、マグカップ自体が黒いので正直色味などわからない。   「あ、お茶なくなった?もっといる?」    目の前の診察台に置かれているのは理科室とかでよく見るガスコンロで、網目の上にビーカーが置かれており湯の中でお茶のパックが踊っている。  緒方が飲んでいる器は片手に納まるサイズのビーカーで、最初は俺もそれで勧められるはずだったが風呂に行く前の匠が止めたから俺だけ別の部屋から持ってこられたマグカップなのだ。    「あ、ありがとうございます」    本当はあまり飲めていないけれど、親切から来るものは正直断りにくい。  一度マグカップに口をつけて飲める分だけ飲んで中身の少なくなったマグカップを差しだすと、熱いお茶の入ったビーカーを自分の服の袖を巻き込み持ち上げた緒方さんが注いでくれる。  それを気を付けて受取り、ふぅふぅと熱を冷まし再び口を付ける。   ふと視線を上げると、緒方さんが台の上で立てた片足に頬杖をついてこちらを見ていた。   「な、何……ですか」 「ミツハル君だっけ、君、イイコだねぇ」   言われた意味が分からなくて俺は首を傾げた。   「なに、言葉の通りさ。ところでどうしてあいつと一緒にいたの?あいつにこんなに可愛い知り合いがいるなんて聞いた事なかったけど」   「かっ…………」  わいいって言うな。  口から反射的に出そうになった言葉を一旦飲み込む。   「その、…………俺が、ちょっと道に迷ってる時に親切にしてもらって」 「へえ、あいつが。誰かに親切にするなんて珍しい」 「それで、なんかだらだらとここまで」    本当に、なんか分からないけれど勢いで手を引かれるままにここまで来てしまった感はある。

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