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土曜日の不穏な視線⑦

*** 「何が"道中気をつけてね"、だ。勝手なことしやがって」 「話を途中から聞いてたくせに、姿を現さなかったなら同罪だろ」   シャワーを浴びて風呂から上がった俺は三治のコートを取りに来た緒方と出くわしていた。 そこから緒方があの子供に何をどう言い、家から追い出したのかずっと影から聞いていた。   「俺はお前に、俺が見ていない間にあの子供が逃げないように見張っとけとは言ったけど、追い出せとは言っていない」 「……珍しいね、君がそんなに他人を気遣うなんて」    緒方の返答が何故か癪に障って、俺は足元に転がる大きめの骨を蹴ってやった。  転がって部屋の端の壁に音を立ててぶつかる。   「あぁ、もう。まだこれから組み立てるんだからぞんざいに扱うなよ」 「足元が雑すぎて椅子を出せないだろ」  さっきまで三治が座っていた丸椅子をさらに引っ張り出して腰掛ける。 完全に乾き切っていない湿った前髪が邪魔で片手でかき上げる。ズボンのポケットに手を突っ込んでそこにある物を引っ張り出そうとすと、あるはずのものが無い事に気がついた。心当たりは一人しかいない。   「緒方」  背を反らしたその先に立っている緒方を睨む。   「あのね、僕の家で吸わす訳ないでしょ。僕のいない所でもそろそろやめて欲しいんだけどね」 「余計な事すんなよ」  言い合うのが面倒になって、俺は机の上に置かれたままのマグカップに口をつけた。中身は冷たくなっていた。 「そんなに気に入ってた?あの子、ミツハル君、イイコだもんね」  診察台に腰を下ろした緒方が俺を見て笑った。 意味ありげなその笑顔は、俺の苛立ちを助長させる。 「そんな顔で睨むなよ、綺麗な顔が台無しだぞ。………………そもそも匠、お前やり方がえげつない」 「何が」 「何が、じゃないよ。右も左もわからない子振り回してさ。何よりあの子は人の親切を断れない子だな、今時珍しい。……どうせここに来るまでにあの子が断れないよう散々誑かしたんじゃないの」 「お前、言い方。なんか俺が悪者みたいじゃねーか」       「だってさ、実際そこに、君のミツハル君を助けてあげたいって言う"善意"はあったの?」    緒方に言われて俺は口角を上げる。    善意とか、親切とか。  そんなもの、とっくの昔に捨てたしこれからも持とうなんて思わない。   「ねーな」   「君は本当、最低だよ。だからこそ僕が親友になったのかもしれないけど」 「ただの腐れ縁だろ」 「縁の解釈はその人の立場よって変わるさ。あーあ、あの子絶対僕のこと嫌ったよ。キラキラで可愛くて、お人形みたいないい子だったのに。君のせいで、絶対嫌われた。君のイメージを崩さなかった僕を褒めてくれて構わない」 「頼んでねーよ」  緒方が言ったとして、あいつが緒方の言うことを真に受けるかどうかは少し気になる所だが、それももう終わったことだ。 緒方に渡されたフラッシュメモリをスマートフォンに差し込む。 昨日深夜に拾った子供を適当に家に帰すミッションは、今日店を出て暫くしてから別の計画へとすり替わっていた。 「じゃあ仕事を始めようか」  スマートフォンの画面に、緒方の集めた情報が一斉に映し出された。

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