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土曜日の攫われた夜③

大体二十代中盤から三十代ぐらいだろうか。 意外と広い部屋……と言うより、地上から階段を降りてきたからきっとここは地下なんだろう。地下室には机やソファ、椅子も置かれていて一見誰かの住まいのようにも見えた。  コンクリートがタイル状で張られた天井の中央に設えられた電気が淡い暖色の光を点しているだけで地下室はあまり明るいとは言えない。 実際部屋の隅は暗く、濃い影を落としている。 「っ……ぇ」 その中に、蠢く何かを目にして俺は目を見開いた。  最初は大きな犬かと思った。蠢くシルエットが人間では無かったからだ。 でも薄暗い光に目が慣れてくるとその正体を知って俺はぞわりと全身に鳥肌が立った。  子供だ。  地下室の隅、光の届かない暗闇の中に、俺と同じぐらいかそれより小さい子供が一人、二人。もしかしたら四人。  集まって怯えている。 「……っそ、だろ」  子供は俺を見て更に身を寄せ合って影の中へと引っ込んでしまう。 その様子に俺は取り返しのつかない場所につれて来られてしまった事に気づいた。 匠と緒方さんの二人と別れた後俺は家に帰る方面の電車にのる前に、昨日会った男から逃げるように立ち去った場所に寄った。  とは言っても、俺に土地勘はないし何せ一つしかない場所であっても迷子になるような方向音痴だ。  ”それらしい”場所に向かおうとしても喫煙所は分からなかったし、男から逃げた場所にも行けなかった。 俺の背丈の倍以上ある運搬車や、それらに積まれたダンボールがゴロゴロしていたのでショッピングセンターの搬入口に近かったのかもしれない。  そこら一帯を詮索していた時に、俺は後ろから伸びてきた手にまんまと口を封じられ体を抱き込まれるように拘束された。  突然身に降りかかった暴力に全力で体を捻って俺を拘束する腕から逃げようと、思いっきり頭を後ろへ振って頭突きを食らわせたら拘束が緩んだが、そんな些細な抵抗はすぐ意味のないものとなった。  一瞬息の仕方を忘れるぐらい腹が詰まって、それが他にもいた奴に鳩尾を蹴られたんだなって理解する時にはもうまともに息が出来ない苦しさや、腹の痛みで抵抗する力なんて出なかった。  脱力した腕を取られ、引きずられるように車に乗せられる。  道中意識がはっきりしてからは暴れたが、それも背中で両手の親指を拘束されてからはもうどうしようもなかった。  車から降ろされた外はとっぷりと日が暮れていた。  そのまま男の背中に担がれ、今に至る。 「っんなんだよ……」

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