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土曜日の攫われた夜⑥
「あぁ、あの子かな?」
部屋に入ってきた男は俺達に目を留めると足をこちらに向け近寄ってきた。
中肉中背の、それでも俺からしたらうんと背の高い成人した男性から逃げるより、距離を詰められる方が早くて、男は俺の目の前までくると腰を下ろし俺の髪を掴んで顔を上げさせた。
「っ――痛っ」
「金髪碧眼、……うん?16歳って聞いてたけどなんか幼くない?まぁいいか」
「ちょっとマサカドさん、あんま乱暴に扱わないで下さいよ」
俺の髪を掴んだままの男はどうやらマサカドという名前らしい。
「昨日ショッピングセンターで迷子になってた奴って、お前?」
男の静止を気に止めず、マサカドは俺の顔をマジマジと見る。珍しい物でも見るような不躾な視線からふいっと目を反らす。
「お前のケータイも財布も俺が預かってるよ。返して欲しい?」
「えっ」
あからさまに反応してしまった事に俺はすぐに後悔した。
俺の態度を見てマサカドはニヤリと笑い漸く俺の髪から手を離す。
「素直でバカな反応だな、救いようがない。……おい、こいつは俺が貰うぞ」
「ちょっと、突然困りますって。勝手なことされると俺たちが怒られる」
「ビビんなって。俺の好きにしていいってお許しもらってっから」
「……まぁ、俺たちの本命は後ろのガキ供だから別にいいですけどね。責任は取ってくださいよ」
「はいはい。じゃー一緒に行こうか。君もこんな所に長く居たくないでしょ」
肩を掴まれ顔を覗き込まれる。男の言葉通りならこの地下室から出られると言う事だが、それは俺の待遇が今より良くなるとは言っていない事ぐらい、俺にだって理解できた。
俺は力の限り体を捻ってその手から逃れる。
「っやだ」
「……面倒臭い事は嫌いなんだよね、俺」
触ろうとしたら噛み付いてやるつもりで前のめりに威嚇する俺に、マサカドはため息をついた。その目は冷え冷えとしていて、怖気付きそうになる。
再びマサカドが手を伸ばしてきたから、俺は精一杯反撃しようと身構えたがマサカドが手を伸ばした先にいるのは俺じゃなかった。
俺を通り越して、その後ろへ。
振り返った俺の横を、長い髪が横切る。
「っ、やだぁぁあ!」
「ちょ、やめろ!!何してんだ!」
俺の後ろにいた俺と同年代ぐらいの女の子の胸ぐらを掴んで俺の目の前に引きずり倒した。マサカドの後ろの男たちも「おいっ!」とそれぞれ声をあげたがマサカドの手は止まる事なく女の子のブラウスを手で無理やり引きちぎった。ブツンッとボタンが弾け飛ぶ鈍い音と、布が裂ける音。
突然の凶行に身動きがとれなかった俺を見てマサカドはその手を止めた。
そしてゆっくり俺に視線を合わせた。
ニヤリ、と口角を歪めるその毒々しさに俺は一瞬息の仕方を忘れた。
「俺と来る?」
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